2009年07月10日

1162旅 内田耀一『ヒットの神様』★★★★

「『心の奥深くに隠れている魂を知りたい』そのために、グループ・ディスカッションの次元を様々に変えて、テーマを絞り込みながら実施したのですが、その発言から膨大な言葉が集まります。もちろん、その言葉には、潜在意識や、"魂"ともいえる人間の心がこもっています」p219
内田耀一『ヒットの神様』(幻冬舎, 2009)

★本の概要
 プロ野球中継、JALパック、インスタントラーメン、サザエさん、レディーボーデン、東京ディズニーランド。これらは、著者の内田氏が1960-70年代に消費者調査を担当した商品だという。アンケート調査しかない時代に、グループインタビュー(ご本人はグループディスカッションと呼ぶ)手法を開発し、様々な案件で消費者の本音を捉えることに成功されたようだ。

★矛盾を見極める
 数々の成功事例のポイントは、矛盾したニーズの見極めとその解決のためのコンセプト創案にあると分かる。
 1.男性にとって、チョコレートは甘くて女性が食べる菓子といったイメージだった。しかし本音としてはチョコに興味がある。そこで内田氏は、ビター味のチョコ、あるいはブランデー入りのチョコを考案したという。2.当時の受験戦争は今より過酷だったが、母親は勉強してほしい反面、子供たちにも息抜きが必要だと感じていた。その傾向から、母親に受け入れられるだろう「サザエさん」をメインスポンサードすることを、東芝に薦めたという。3.便秘に悩む女性はなるべく薬は飲みたくない。しかし効果は欲しい。そこで、当時としては異例だったがピンク色で小粒な便秘薬を生んだ。それがコーラック。4.消毒薬を子供に塗る必要があるが、子供は痛みを嫌がる。痛みがでない薬をコンセプトにしたのが、当時山之内製薬が販売したマキロンだという。

★編集後記
 他社が売れない、自社でも売れてこなかった背景には、何かそのままでは矛盾する要因がある。現場の声からそのヒントを捉えることは、現代でももちろん必要なことだ。


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[掲載]誠Biz.ID書評15号は『「甘え」の構造』

15回目の書評が掲載です。偶然ですが、この原稿を書いた後の7月5日に著者である土居健郎さんが逝去されました。追悼の意味も込めながら掲載させて頂きます。

http://bizmakoto.jp/bizid/articles/0907/10/news032.html

こちらは633旅でとりあげたことがあります。今回は元の図表とあまり変わりありませんね。日本人の精神構造をうまく説明された一冊だと思います。

書評のバックナンバーはこちら。
http://bizmakoto.jp/bizid/writer_retsu_fujisawa.html
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1161旅 高橋邦太郎『パリのカフェテラスから』★★★

「ブリヤ・サバランの一生は全く『舌と胃』との人生であった。そして、料理の中に哲学も、趣味も、快楽も、およそ、われわれ人間すべての生きる意義を見出し、一冊の本を書いた。題して『味覚の生理学』という」p90
高橋邦太郎『パリのカフェテラスから』(三修社, 1984)

★本の概要
 著者は翻訳家であり、日仏文化交流研究者。パリでのカフェやレストランでの生活体験を綴ったエッセイ集である。カフェ話を読みたかったのだけど、あまり触れられていない。

★グルメと人生
 食通王とよばれるブリヤ・サバランについての解説が面白かった。グルメも、日本の茶道のように総合芸術なのだと理解できる。食体験の時間軸にそって整理してみる。
 そもそもグルメは食欲から生じているから、人間に与えられた「天命」なのだとサバランは言う。料理自体も、あらゆる科学と技術に基づき創られる。食事中には味覚だけでなく嗅覚や触覚も用いられて、肉体と霊魂が一体となって幸福を感じるという。禅体験のようだ。
 また食事は社交や夫婦の交流にも大きな意味をもつ。そして食べ物は栄養となりその後の人の活動を支える。そのことをサバランは「美味学は人間の一生を支配する」と表現している。

★編集後記
 今も昔も食に対しての関心は強い。古今東西の食に焦点をあわせて、その歴史を探るのも面白そうだ。

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2009年07月09日

1160旅 加登豊ほか『原価計算の知識』★★★

「高いレベルに設定された諸目標(品質、納期、機能、コスト)を同時達成するためのコスト・マネジメントとして原価企画があるわけです。数多くの事例や研究成果から原価企画をみていくと、次のような考え方が基礎にあると思われます。・厳しい目標とマイルストーン管理。・源流管理と原価・利益の造りこみ。・顧客満足。」p164
加登豊ほか『原価計算の知識』(日本経済新聞出版社, 1996)

★本の概要
 原価計算に関する入門書。原価の基礎概念から、標準原価計算などの方法、ABC/ABMの基礎まで簡潔に説明されている。

★原価企画について
 商品開発の段階から適正な原価を設定する手法が、原価企画である。ものづくりが得意な日本はこの分野が強い。その内容を説明したい。
 原価企画では、まず目標とするコストを算出する。目標とする利益をイメージして、それを予想販売価格から引き算することで目標コストを出す「控除法」。また技術革新、ムダ・ムリの排除、その他コストに影響する要因を検討し、一つひとつの原価を積み上げることで目標コストを見出す「積み上げ法」がある。控除法は現場のコミットメントが弱まり、積み上げ法は目標利益になかなか到達しないから、両社の折衷法が選ばれることになる。
 次に目標コストの達成方法。まずは目標コストを細分化してそれぞれに責任を設定する。ついで、様々なツールを用いて目標コスト達成を目指す。機能別に目標コストを算出するバリュー・エンジニアリング(VE)、CAD・CAMの活用による設計作業の適正化、加工作業や処理時間などの製品原価に関するデータを整備するコスト・データ、部品の共通化を進めるVRP(バラエティーリダクションプログラム)などのツールが用いられる。
 コンセプトが定まれば、その後は緻密なものづくりが必要になる。日本企業の特性も、まだまだ活躍できる番目はあるだろう。

★編集後記
 不思議なもので、自分にとって尊敬させて頂いていた方々とお会いする機会が増えている。何を自分がやっているかうまく説明できないけれども、見えない分だけ、何かに向けて進んでいるように感じる。


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1159旅 ジェームズ・キャントン『極端な未来 経済・産業・科学編』★★★

「あらゆる人とモノとがIPアドレスを与えられて、オンラインで結ばれると共に、移動中でも高速ネット接続ができる次世代無線通信技術が実用化されるため、いつでもどこからでも、誰にでも何にでもアクセスできるユビキタスネットワークが構築される。誰かが私たちを常時監視することも可能になる」p214
ジェームズ・キャントン『極端な未来 経済・産業・科学編』(主婦の友社, 2008)

★本の概要
経済・産業・政治・社会といったカテゴリーにおける未来像を描いた一冊。著者は未来予測専門のシンクタンク代表であり経営コンサルタント。本著はその上巻にあたる。

★極端な未来はすすむ
 キャントンが示す「極端な未来」の10トレンドをまとめてみたい。
 水素など次世代燃料、ナノテク・神経工学を通じた長寿医療の進展、テレポーテーション、多重宇宙論などの未来科学、そして気候変動の四つが、自然科学分野での変化。イノベーション経済の進展、グローバリゼーションと文化の衝突、労働力の多文化・多民族化、アメリカと中国の関係の深化、個人の権利と自由を抑圧する動きといった六点が、社会科学分野での変化となるという。
 エネルギー・気候問題の解決によりグローバリゼーションは進む。ナノテク・神経工学によって個人の力を拡大すると同時に、個人をコントロールするツールにもなる。技術と社会は、らせん状に絡まりあいながら螺旋状に進展することがうかがえる。

★編集後記
 分割されきった産業や事業をいくら分析しても答えはない。そうしたカテゴリー同士の矛盾を解決する見えづらい領域に、次の時代の可能性がある。


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2009年07月08日

1158旅 読売新聞社『昭和史の天皇 原爆投下』★★★★

「わたしは四つの都市をあげ、なかでも京都が一番の目標であり、なにしろあそこが、この爆弾(原爆)の効果をもっともよく点検できるし、また、京都には、大きな工業地帯もありますからといった。するとスチムソンは言下に『京都は困る』といい、長い歴史をわたしに語って聞かせ、京都は、日本の芸術と文化の中心であり、むかしの首都であるといい、さらに、どうしてそこを爆撃してはならないか、多くの理由を説明した」p36
読売新聞社『昭和史の天皇 原爆投下』(角川書店, 1988)

★本の概要
 昭和42年から同50年にかけて、読売新聞紙上で長期連載されたのが「昭和史の天皇」。当時は敗戦から20年と少し。戦争の記憶が丹念に拾い上げられた、貴重なシリーズになった。その中から、本著では原爆についてのエピソードが紹介されている。

★最初の原爆が投下されるまで
 アメリカと日本の原爆開発の話と、最初の一発が投下された広島での話が本著には掲載されている。ここではアメリカが原爆投下するまでの流れを追ってみよう。
 マンハッタン計画(原爆製造計画)が発足したのは1942年6月18日。43年8月段階で、ルーズベルト米大統領とチャーチル英首相は「同意なしに第三者に使用しない」と決めていたが、44年9月には「日本に対して使用」との覚書に調印したという。そのころにはドイツの危機は去っていたからだ。
 ドイツが降伏した翌日の'45年5月8日には原子力政策についての会議が実施。6/21の会議で日本に無警告で原爆を使用することが決定された。科学者の中には、日本人の生命を失わせない"実演"に留める方向も模索されたようだが、その結果日本が降伏しなかったら。ソビエトにインパクトを示せるか、といった観点から見送られたようだ。
 そして1945年7月に原爆は完成され、7月16日にニューメキシコでテストが行われた予想以上の結果をのこす。そして8月6日、広島・小倉・長崎を目標として原爆を搭載したB29に日本へと向かう。広島は必ずしも晴天ではなかったが、市内上空20km四方だけ雲が切れており、当初想定通り、最初の原子爆弾リトルボーイは投下される。

★編集後記
 青砥から金町駅周辺まで、中川沿いを走る。10km。


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1157旅 日本の未来研究会『大予測』★★★

「ASEANは中国に対して警戒心を持っており、FTAの締結に関してはまず日本との間で取り組みたいと、日本政府に提案した。ところが日本政府はFTAには踏み切れず、結局、翌2001年に中国が再度提案。そこで中国とASEANの間でFTAを2010年までに実現するという合意が成り立ってしまったのである」p200
日本の未来研究会『大予測』(講談社, 2006)

★本の概要
 大学教授、ジャーナリスト、官僚など30人の専門家集団である「日本の未来研究会」による一冊。清家篤、御厨貴、井堀利宏、苅谷剛彦といった専門家へのヒアリングを通じて日本の各分野の今後を予測している。

★日本と中国の関係はいかに
 その中から安全保障とアジア外交について。11の予測の中で中国に関係する内容が7つである。
 中国の状況としては、農民の暴動などを通じて共産党政権の不安定は続く。しかし経済はまだまだ成長するため、2015年頃にGDPは日本を追い越し、アメリカに迫る。経済力を背景に軍事力を拡張。量に加えて質でも台湾を軍事的に凌駕するため、台湾併合作戦を展開する可能性は低くないという。また中国沿岸部には日本と台湾を射程におくミサイルが千基以上配備されていく。
 靖国神社、尖閣諸島、台湾問題などで 日中間は対立が続いており、政治的に日中関係の進展は見込みづらい。今後は東アジア共同体構想が進展するが、日中間での主導権争いが強まるという。そうしたパワーバランスを考慮すると、日本は韓国との関係を強化して中国に対抗するとみられると本著は予測している。

★編集後記
 人の認識を別として、時間と空間がいかに刻まれてきたかを身体にとりこみたいと考えている。そのために歴史を探り、日々見知らぬ土地に移動しつづけようと思っている。

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2009年07月07日

1156旅 阿川弘之ほか『二十世紀日本の戦争』★★★★

「戦争とは軍事、外交、政治、経済、科学技術、そして社会、文化のあらゆる要素が投入される、最も濃密で烈しい国家体験であることは間違いありません。20世紀が終わろうとしているいま、日本がかかわった大きな戦争を振り返りながら、なにが近代日本の成功につながり、なにが誤っていたのか。そしてどこに判断の岐路があったのかを考えてみたいと思います」p8
阿川弘之ほか『二十世紀日本の戦争』(文藝春秋, 2000)

★本の概要
 戦争中は海軍大尉だった阿川弘之、作家の猪瀬直樹、歴史学者の中西輝政、現代史家の秦郁彦、文芸評論家の福田和也の五氏による、日露戦争〜太平洋戦争の実情をつぶさに議論した討論本。『文藝春秋』誌に最初は掲載され、話題になった。

★日本はなぜ負けたか
 日露戦争以降のそれぞれの戦争に、日本がその後敗戦を迎えていった原因が含まれていたことが明らかにされていく。
 日露戦争は勝利したわけだが、当時のロシアのGNPは日本の8倍。太平洋戦争時のアメリカも当時の日本の8倍であり、ロシア同様にアメリカもおそるるに足らず、といった心理醸成の遠因になったという。
 第一次世界大戦中の欧州は、太平洋戦争の日本のように精神主義をもっていたという。しかし日本はこの大戦の分析を十分行わず、敗戦国であるドイツにむしろ共感。教訓を太平洋戦争に持ち込むことはできなかった。
 満州事変によって、日本の植民地政策はイギリス的な「栽培型」から、スペイン的な「掠奪型」に変化。そのことが大東亜共栄圏という無謀な領土拡大コンセプトにつながったという。
 そうした歴史があいまって日本はアメリカとの戦争に踏み切り、やがて大敗を喫する。しかし敗戦によって日本はその後経済成長を遂げた側面もある。歴史の不思議さを感じる。

★編集後記
 NPO向けの組織基盤強化ワークショップを実施。非営利セクターの力が強化されて、企業や国を補完する存在にますますなってほしいと、期待したい。


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1155旅 成田豊『広告と生きる』★★★★

「広告ビジネスは年々大がかりになり、権利関係や金銭的な利害が複雑に絡み合う。広告会社は黒子として、調整役を担うことも多い。24時間365日、気は張りとおしだった。(略)目配りすべき範囲が広がれば気がかりの種も増える。どんな状況下でも帰宅後はすぐ眠りに入るよう、薬が必需品となった。部下からは鬼軍曹と呼ばれた。そうした日々を離れ、薬は要らなくなった」p2
成田豊『広告と生きる』(日本経済新聞出版社, 2009)

★本の概要
 成田豊氏は、1993年から2002年にかけて電通の社長を務めた方で、現在は最高顧問。2008年に連載された日経「私の履歴書」に加筆修正されたのが本著である。

★成田豊氏と電通の近代化
 成田氏の電通での歩みが、そのまま電通という会社の成長と軌道を一つにしている。
 入社は1953年。当時の売上は123億円で、現在の6%程度。中興の祖である吉田秀雄4代目社長もそうであったように営業局地方部に配属され、33歳の若さで部長。地方新聞オーナー社長の経営参謀のような仕事でもあったようだ。1968年に「青年の船・太平洋大学」を企画、1975年に浅利慶太氏らとともに都知事選の意見広告実現、1981年「ヴァチカン秘宝展」を成功させるなど広告の枠を広げる成果を残していく。その後も、1983年劇団四季キャッツシアター公演、1984年ロス五輪開催に尽力、1997年徳間書店と「もののけ姫」共同制作、そして2002年サッカーW杯日韓共同開催といったように、文化と広告・マーケティングの融合を実現させた。
 社長時代には東証一部上場と新社屋への移転も完成させており、電通という会社を近代的な形で完成させたと言える。

★編集後記
 21時に起きると、2時頃に目が覚めてしまったりして、さてこのまま起床すべきか、と迷ってしまう。

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2009年07月06日

1154旅 山根節ほか『「日経ビジネス」で学ぶ経営戦略の考え方』★★★

「『何のために経営をしているのか』は極めて簡単な問いのようだが、これが曖昧なままでは、成長の踊り場を迎えた時に、さらなる成長を目指すことは難しい。一般には企業の成長とともに、企業目的の見直しも必要とされる。誰に対してでも、胸をはって誇れる企業目的をもつことが、企業活動の出発点である」p9
山根節ほか『「日経ビジネス」で学ぶ経営戦略の考え方』(日本経済新聞社, 1993)

★本の概要
 「日経ビジネス」に掲載された4-5pの企業事例記事から、その会社の経営戦略の是非について検討されている。1993年の出版だから事例は古いけれども、その分、戦略の考え方の基本は変わらないと実感できる。

★戦略性を四つに分解する
 本著での戦略性は、1.整合性(How)、2.重点性(What/Where)、3.計画性(When)、4.目的性(Why)に分解されて説明されている。
 第一に、外部環境−自社戦略、全社戦略−事業戦略、戦略−経営機能、各機能間の四つの整合性がもとめられる。つづいて、事業領域、市場、製品といったカテゴリーを対象とした重点性。短期〜長期の時間軸にそい、他社連携も含めて求められる計画性。そして企業ビジョンに基づいて、目標・戦略を練る目的性が必要となるという。

★編集後記
 とはいえ計算通りに戦略を練っても成功するとは言えない。むしろ一般的な戦略を検討した上で、逆張りの戦略を突き進むのも一計かもしれない。



posted by 藤沢烈 at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の旅 ★★★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする