2008年07月26日

414旅 中村元『龍樹』★★★★★

「空の中には何ものも存在しない。しかも、あらゆるものがその中から出て来るものである。それは鏡のようなものである。鏡の中には何ものも存在しない。だからこそあらゆるものを映し出すことが可能なのである。(略)大乗仏教、とくに唯識説では、われわれの存在の究極原理であるアーラヤ識が転ぜられて得られる智を大円鏡智と呼んでいる」p446
中村元 『龍樹』(講談社, 2002)

 インド哲学の大家だった著者による、龍樹の解説本。龍儒はBC200年頃に生きたインド仏教僧であり、釈迦の縁起を"空"のコンセプトによって説明し、大乗仏教の思想の根本を固めた。本著は難解とよばれる龍樹の思想がわかりやすくまとめられ、主著である『中論』の訳文も掲載されている。仏教思想の原点を理解するための本として最適ではないか。
 "空"は鏡にたとえられるという。何も持たないが、それゆえに全てを持つ存在。本来物質もそうであるかもしれない。粒子の根本は何ものでもないから、科学的に操作して何ものにも見せかけていくことができる。しかしその物も無限に固有ではいられず、エントロピーに負けて腐り崩れていく。
 龍樹の時代は、物体よりも精神の空性がより理解しやすかったのではないか。しかし、合理的で分別ある考えが主流になった今では、逆転しているように思う。
 自分の心は世界から影響が与えられ、また自分の心は世界に影響を与えていく。また本来は自分の心も他人の心も分け隔てがないものであった。
 日本人の自殺も他殺も増えている。そして自殺に対しても他殺に対しても人事のように非難がなされる。日本人という一つの生き物が、壮絶に自分を傷つけ続けている姿のように見える。

□参考ウェブサイト
『龍樹』

posted by 藤沢烈 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の旅 ★★★★★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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