2009年06月25日

1131旅 村上春樹『海辺のカフカ(下)』★★★★★

「『君にはそれができる』僕はうなずく。『眠ったほうがいい』とカラスと呼ばれる少年は言う。『目が覚めたとき、君は新しい世界の一部になっている』やがて君は眠る。そして目覚めたとき、君は新しい世界の一部になっている」p528
村上春樹『海辺のカフカ(上)』(新潮社, 2005)

★本の概要
 『海辺のカフカ』下巻。裏表であったカフカとナカタさんの物語が、次第に一つになるに従ってクライマックスも近づく。そしてカフカが取った選択とは。デタッチメントからコミットメントへと視点を移した村上春樹の結論がここにある。
 
★カフカと麻原と。
 1130旅からの続き。村上春樹は、麻原が創造した物語にたいしていかなるアンチテーゼを投げかけたのだろう。
 まず前提となる世界観は、「お椀山事件」を調べた塚山教授の思想に現れる。「この世界における一人ひとりの人間存在は厳しく孤独であるけれど、その記憶の元型においては、私たちはひとつにつながっているのだという先生の一貫した世界観には、深く納得させられるものがあります」(上巻, p200)。世界は一つであるけれど、一人一人は孤独。この視点に沿って、初期の村上春樹は世界におけるデタッチメントを描いていた。だからこそ、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の最後、主人公は一人森という自らの世界に残った。
 しかし、こうした孤独を深めることが、麻原的世界観に繋がるリスクもある。『アンダーグラウンド』『約束された場所で』の仕事を通じて村上春樹はそう感じたのではないか。以来彼は「社会的コミットメント」をキーワードとし始める。そして本著でも、主人公カフカは深い森に独り入るが、最後に森から去って現実世界に戻ることになる。
 麻原はキレイで幸福感ある桃源郷の物語を生んだ。村上は、世界に暴力と穢れがあることを前提として、それでもその世界に戻ることの美しさを示したように感じた。「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」。この小説の冒頭の予言である。暴力的なこの世界を生きるにはタフさが必要となる。だけれども、15歳のカフカ同様に、すべての人々にもタフさが備わっているはず・・そんな村上春樹の希望が見えてくる。

★編集後記
 母親と銀座で17時から会う。去年ラオスで会ってから一年近くぶり。一月末に日本に帰国したのだけれど、その後もラオスやカンボジアを飛び回っていて会えなかった。今もっともアポを取りづらいのはうちの母親だ。また来月か再来月にアジアに行くようなので、次は彼の地での会わせてもらおうと思う。店から出たら、外はまだ薄明るかった。


posted by 藤沢烈 at 04:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の旅 ★★★★★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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