「各地に展開している『農産物直売所』『農村レストラン』『農産物加工場』は、日本の中山間地域に『希望』と『勇気』を与える三点セットとして重要な意味を帯びてきたのである。(略)これらの事業は全体で一兆円を越す市場とさえ言われ、また、毎年10〜15%は伸びているとされている。まさに日本に残された最後の成長市場と言ってもよいであろう」p21
「『民間主導型』『行政主導型』『農協主導型』の三つに大別される。一般的に農産物直売所のスタートは農家女性たちの自主的な取り組みから開始されたといわれており、『民間主導型』として開始されている。その後、その成果を受け止めて、各地で『行政主導型』の農産物直売所がオープンし、さらに、当初、否定的であった『農協』が参入してくるという流れとなっている」p126
■概要
農協を離れ、農家の女性たちが独自流通をてがけているのが「農産物直売所」。そうした農商工連携の先端モデルを、岩手で40以上集めたのが本著である。高成長し、既に一兆円以上の産業に化けている理由がよくわかる。著者は関満博先生。
■地域変革のステップ
「新しい民間」→「行政」→「古い民間」の順番に農商工連携が進んでいる様子が面白い。地域の女性が中心となってモデルを作り、行政が支援をし始めた後に、農協などがモデルを受け入れるという。
震災復興に置き換えてみたい。「若者」「女性」「よそ者」らが中心となってコミュニティで新しい取り組みを開始する。それらを行政が正統化することで、元々の自治会なども受け入れ始める。復興でも農商工連携と同様のモデルが通じると思っている。
■岩手における水産業発展の課題
なお、岩手における水産業支援の課題も掲載されていたので転載しておきたい。
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@自立した漁業経営体の育成支援
・漁場利用の新たなルール作りによる強い経営体の育成
・直売や買い取り販売などによる流通チャネルの多角化支援
・「サケ養殖事業の改善による回帰率の回復」「アワビの漁獲期間の拡大による回収率の向上」「ワカメ養殖の機械化、自動化システムの開発・導入」「新養殖品種(マツモ、ナマコ等)開発と事業化」「ウニ等の畜養など既存漁港施設の有効活用および漁場整備」
A戦略的な流通加工販売への取り組み支援
・漁業者・漁協と消費者との距離を縮めるための直売所へ出展、地域ブランド化の推進
・輸出促進
・流通コスト削減にむけた取り組み
・鮮度・衛生管理による高品質商品の開発
・高齢者向け水産加工品の開発など産学官連携の促進
・量販店や外食バイヤーと水産加工業者とのマッチング
・HACCP対応、トレーサビリティの導入など、安全・安心など市場ニーズに対応しうる基盤整備
・漁業者と加工業者の連携による養殖水産物などの付加価値向上
・地域の六次産業化を目指した産業連携の促進
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漁業にせよ水産加工業にせよ、消費者との独自チャネルとブランドが必要。その道筋は震災を経ても変わってはいない。後は進め方の変化が求められているのだろう。