自衛隊やボランティアも重要ですが、発生直後に大勢の人が救われるのはこの法律のおかげです。避難所、仮設住宅、食事の提供、医療の提供などを自治体が実行し、また国がすべての費用を見ることを保証しているからです。とはいえ、制度の限界や課題もあります。東日本大震災の緊急期は過ぎましたが、日本における災害対策を考える方は、必ず知っておくべき内容です。今回は、『「災害救助法」徹底活用』(津久井進ほか, 2012)という渋めのタイトルの本をベースに、論点整理してみます。
■特別基準により、柔軟にカバー
災害救助法は、33条からなる短い内容です(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO118.html )。しかし対象は幅広。避難所、仮設住宅、炊き出し、被服、医療、救助、住宅応急処理、埋葬などすべてが関わってきます。被害は事前に想定できませんから、毎回状況に応じて"特別基準"が設定されることになります。例えば、昨年の震災で通知された内容例を挙げてみましょう。
1「災害救助法の救助費用は、東京電力福島第一原子力発電所の周辺区域からの避難者か否かに関わらず、受入れ都道府県から被災県に全額求償できる」(4月4日)
2「都道府県が民間賃貸住宅を借り上げ、現に救助を要する被災者に対して提供した場合、災害救助法の対象となり国庫負担が行われること」(4月30日)
原発被害によって長期県外避難が強いられたのが今回の震災の一つの特徴です。1の通知によって、全国自治体が避難者を受け入れやすくなりました。また今回は津波被害により、仮設住宅を建設する立地が大幅に不足。そのため、借り上げ住宅も災害救助法が適用されることが、念のため確認されています。
■市町村職員が基準を担うことによる限界
特別基準を、スピーディに柔軟に適用することがポイントになるわけですが、そこに課題もあります。やや長くなりますが、本から引用します。
「被災地・被災者のニーズを的確に把握し、一般基準によって充足ができるのかを判断し、できない場合は、特別基準の設定を検討する。市町村並びに都道府県の職員がどこまで被災者のニーズを把握できるのか、そして、ニーズを特別基準として設定することの必要性・合理性をどこまで説明できるかがポイントとなる」p43
「特別基準を設定するといった弾力的な運用が可能であるとしても、1.現場の職員が特別基準の存在自体を知らない、2知っていたとしてもどのような特別基準を設定すればいいのかわからない、3特別基準を設定したくても上級の行政機関を説得させるだけの理由が見いだせない、4現場自体が上級の行政機関に交渉をするというのはそれ相当の精神的負担となる、5都道府県からすれば、特別基準を設定すると余計に費用がかかるという金銭的負担がある、というように、なかなか特別基準が設定しにくい環境ができあがっている」p44
上記のように、特別基準を検討するのは、市町村職員となります。しかし、災害対策法のことに詳しい職員には限りがありますし、そうした職員が被災者のニーズをきっちりと吸い上げることは容易ではないでしょう。私が必要だと考えるのは、NPOをはじめとした民間が現地の状況を理解し、行政と連携しながら特別基準に関する要請を、県や国に出していくことです。
■民間と行政による、情報防災訓練が必要
つなプロ(被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト)という取り組みがありました。宮城県すべて400カ所の避難所を回り、被災者のニーズを吸い上げ、専門NPOがその支援を行うというもの http://www.hnpo.comsapo.net/portal/tsuna-pro/portal.index 。RCF復興支援チームも当初から関与していて、現地からあげられるデータを分析し、提言する役目を担っていました。食事・衛生環境の悪さ、トイレの不足など、避難所での困りごとをいち早く理解していたのは、行政よりも、つなプロでした。今から考えると、基礎自治体や県との連携があれば、国に対して特別基準の要請を早期に出せていたように思います。私自身も内閣官房ボランティア連携室に所属していましたから、そうした提言も可能だったでしょう。
東京で首都直下地震が発生した場合、自治体機能の劣化が予想されます。東日本大震災同様、被災状況をつぶさに理解するためには、つなプロのような民間の取り組みが再び求められるでしょう。その際には自治体と連携し、災害救助法とのリンクが図られる必要があります。
民間/ボランティアの取り組みとして、物資支援や義援金や炊き出しも重要です。しかし、行政だけでは担えない「情報の把握」も民間だからできることがあります。情報という観点での"防災訓練"を、民間・行政で実施する必要が、今から・今すぐ求められるでしょう。
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