■生産者重視の時代
そのため、起業家やフリーランス(今風にいえばノマドでしょうか)の支援は不十分ですし、学校から中退すれば教育支援はなくなりますし、各種業界団体に入っていない個人はサポートされません。先日、ある美容業界の方の話しを伺いましたが、業界団体の加盟率は4割程度にも関わらず、加入しているか否かで支援が変わってくるとのことでした。経済成長期であり、生活者(個人)よりも生産者(組織)を重視する時代が続いていたのでしょう。
■官も民も生活者重視へ
湯浅誠さんもそうですし、最近の若いNPO/社会起業家も、国がなかなか進められない個人への支援を補う役割を果たしています。育て上げネット工藤さんは、定職につけない若者自立支援(http://www.sodateage.net/ )。NEWVERY山本さんは、漫画家の卵支援(http://www.newvery.jp/ )。フローレンス駒崎さんは働く親支援(http://www.florence.or.jp/ )といった具合です。彼らは事業を通じて個人支援を行うだけでなく、政府が個人支援に政策を移しつつある流れにのっとり、様々な形で政策提言も行うようになっています。
政府も、個人向けの政策を開始しています。内閣府男女共同参画局(http://www.gender.go.jp/ )、共生社会政策(http://www8.cao.go.jp/souki/index.html )あたりで少子化、自殺対策、障害者施策、外国人施策などを扱っています。金融庁も業界保護から預金者保護に。また生活者保護を第一の任務をあげた役所として、2009年に消費者庁が発足しました。
■安倍首相から、湯浅誠さんへ
歴代内閣の中で、こうした「個人」向けの施策を重視したのは誰か。意外かもしれませんが、安倍晋三内閣でした。彼は「再チャレンジ支援」を小泉内閣の官房長官時代から推進。就任直後の平成18年12月には、「再チャレンジ支援総合プラン」を策定しています(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/saityarenzi/hukusenka/dai2/siryou1_1_2.pdf )。
経済的困窮者(フリーター、ニート、多重債務者や事業に失敗した人)。機会の均等に恵まれない人(子育て、離職、障害、暴力などの困難)。新たな暮らし方を選ぶ人(新しい人生を選ぶ高齢者。学び直しをしようとする社会人)が対象。省庁の縦割りをこえて、総合的に支援する内容でした。安倍内閣が一年満たず倒れたため、政策はストップ。しかし引き継いだ福田首相は「国民に新たな活力を与え、生活の質を高めるために、これまでの生産者・供給者の立場からつくられた法律、制度、さらには行政や政治を国民本位のものに改めなければなりません」と所信表明演説を行い、2009年の消費者庁設立へとつなげています。政権のごたごたで注目されていませんが、このタイミングで「生産者」から「生活者」へと政策の力点が変化しつつあったわけです。その流れの先に、湯浅誠さんの内閣府参与就任(2009年10月)や、内閣官房社会的包摂推進室の設立があります。
■復興は生活者目線になりえるか
それまでは、個人の問題はあくまで企業や家庭が解決すべき事柄であり、行政が立ち入るものではありませんでした。ホームレス、自殺、児童虐待、少子高齢化の悪化の中で、行政が家庭や個人に関わりを持つようになったわけです。企業組織の余裕がなくなる中で、個人を支える社会づくりはますます必要になっていくことでしょう。
ただし、震災復興の文脈ではまだまだ「生活者目線」とは言い切れません。現時点では、地方自治体、教育委員会、漁協・農協、中小企業、業界団体など、既存組織のサポートが政府としても主たる役割です。しかし、最終的には各コミュニティごとの個人的な繋がりが、合意形成を行う上での要点となります。そして被災者に気持ちに寄り添うためにはNPOが有益です。その良さと課題には注意しつつ、NPO、行政、企業の連係事例創出を図っていきたいと考えています。復興庁の岡本統括官も、インフラに限らず被災者個人の生活を重視することや、NPOの役割に理解を示して頂いています。(4月18日)
■参考文献
岡本全勝「再チャレンジ支援策に見る行政の変化」『地方財務2007年8気号』(ぎょうせい)
※今晩は、田村さんと共に、岡本統括官と一献させて頂きました。4万人の霞が関官僚の中で、実名で10年以上ネット上で発言されているのは全勝さんのみです(twitterやfacebookの登場で少しずつ増えているようですが)。その発言を、ぜひ注目頂きたいと思います(私はiPhoneのホーム画面に登録し、毎日見させて頂いています)
http://homepage3.nifty.com/zenshow/
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