2012年05月02日

被災地の一年を知る〜『南三陸日記』(1458旅)

 復興が進まないと言われます。もちろん現地ではそんなことはなくて、季節がめぐる中で、ゆっくりと被災地は変わりつつあります。しかしなかなか東北に足を運べない方にとっては、どのように変化しているかイメージが沸かないと思います。そんな皆さんに、今日は被災地の春夏秋冬を感じさせる一冊を紹介したいと思います。朝日新聞記者である三浦英之さんによる『南三陸日記』です。彼は2011年6月から一年近くに渡って南三陸に居住。毎週、朝日新聞全国版に南三陸のいまを綴っていました。

■青空コンビニ
 変化を感じさせる一つは、コンビニエンスストア。セブン・イレブン志津川天王前店という店が震災前に存在していましたが、完全に流されてしまいました。しかし津波を免れた店長は、スタッフと共にテーブル1個からなる青空コンビニを5月に再開させています。(http://www.asahi.com/national/update/0511/TKY201105110210.html )。その後、夏からは仮設店舗での営業を開始。しかし冬にはボランティアが減ったことで売上が七割に減少してしまいます。そのこともあり、オーナーの19歳の息子さんが店長になったことも、記者は報じています。一年の変化が感じられます。

■「私をこのまま、お嫁さんにしてくれますか」
 つよく心に残ったのは奥田江利子さんのエピソードです。今年の3月11日には、政府主催で震災追悼式典が行われました。その際に、宮城県遺族代表としてスピーチをされたのが奥田さん。Youtubeに動画が残されていますから、ご覧になっていない方は、静かな時間に一度視聴頂ければと思います(http://www.youtube.com/watch?v=-o-4iMBK--g )。
 奥田江利子さんは離婚をされましたが、二人の両親と、息子・娘の五人で暮らされていました。しかし、津波によって四人を亡くされてしまいます。息子の智史さんは震災六日前の3月5日に結婚もされていて、奥さまの江利香さんは妊娠をされていました。彼女は、四人の遺体を前に泣き崩れる新郎の母に、こう話しています。「私をこのまま、お嫁さんにしてくれますか」。

■「最後の希望なんです」
 三浦記者は江利子さんと江利香さんを一年間取材されていました。7月12日には江利香がお子さんを出産。新郎母であった江利子さんはこのように話されています。「生まれてくる子は、私の最後の希望なんです」。その時の様子も三浦さんは報道しています(http://digital.asahi.com/articles/TKY201203270464.html )。
 3月11日の式典が終わった時、三浦記者は東京にいる江利子さんと電話で話されたそうです。『泣かないと決めてたんだけれども』彼女このように話し始めたそうです。『でも、読んでいるうちに、智史も梨吏佳の顔が何度も出てきて。まるでそばに寄り添ってくれているように思えて・・』
 南三陸日記。被災地の移り変わりを知る上で、ぜひ手にとって頂きたい一冊です。

■参考文献
三浦英之『南三陸日記』(2012,朝日新聞出版)★★★★ (1458旅)

posted by 藤沢烈 at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の旅 ★★★★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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