2008年01月05日

79旅 『僕たちが旅に出る理由』中田英寿・沢木耕太郎 ★★★★

「沢木 昔、パルマで会って話をしたとき、外国で成功する日本人選手の成功の条件を尋ねたら、中田さんがこう言ったのがとても印象的だったんだ。『日本に帰ろうとしない人。日本にいつか帰ろうと思って海外に行かない人が、外国で成功できるんじゃないか』『じゃ、中田さんはどうなの?』と聞いたら、『別に日本に帰る必要はないと思う』って。初めてイタリアに行ったときも、やがてスペインに行くかもしれないし、どこか別の国に行くかもしれないけど、いつかは日本に戻ってこようという感覚は最初からぜんぜんなかった?
中田 あんまりなかったですね。
沢木 やっぱり中田さんは遊牧民じゃないけど、移動する人なんだね。ノマドなんだね。
中田 いまは、それぞれの地域で文化が違ったり言葉が違ったりはしても、世界というものが一つの家のような感覚で。だから、自分がどこにいても別に関係ないと」p92
「沢木 そうか、考えてみれば、新しいストーリーを考えて、それを自分で演じていくんだからね。
中田 そうなんですよね。ある意味、毎日、小説を書くことに似たようなところがあるんじゃないかな・・・。
沢木 ぼくの小説は、始まったときには、どこに行くかわからなくて、終わったときに、ここにきちゃったんだ、という感じだったんだけど、中田さんの場合には、およその道筋みたいなものはこの先見えるの?
中田 というよりも、やっている中で決まるじゃないですか、ストーリーも。どこへ行くというのも。
沢木 もちろん。
中田 同じですよね。僕も、旅している中で、こういうことが起こって、こういうことを見てきたから、こういう方向に進むのかなというのは大体、やっていくうちに見えてくるんだと思います」p98
中田英寿、沢木耕太郎『僕たちが旅に出る理由』(クーリエ・ジャポン2008年1月号、新潮社)

 5年ほど前だろうか。米タイムズ誌の表紙をイチローと中田が飾っていて、同世代の日本人で世界的なリーダーが現れたことに強い印象を受けた。この正月にNHKでイチロー、雑誌で中田の声を聴き、別の道を歩めど二人は間違いなく同世代のリーダーでい続けていることを理解した。
 世界的な実績があるから、二人が影響を与えているわけではない。イチローは07年首位打者を逃した。しかし記録以上に、イチローの生き様を皆気にしている。中田に至ってはサッカーを引退した一人の旅人に過ぎない。しかし彼の言動はサッカーを超えて注目されている。
 この記事で感銘を受けたのは二点ある。
 一つ。50代の沢木は、深夜特急の旅から、結果的に日本へ帰国することを選んだ。30代の中田は、日本に帰る必要がないとする。この日本と世界の境界がゆらいでいる感覚は、間違いなく次の世代に求められるものと感じた。
 一つ。中田はゴールを狙い続けた人生から離れ、ゴールなき人生を物語るように生きている。彼の動きは神話のようだと思っていたが、実は本人も物語を作る意識を持っていた。
 中田は、サッカーという全体から「ひとり」離れ、それゆえに「ひとつ」を掴もうとしているのではないか。次の時代の解像度を高めていくために、彼の言動を見逃すことはできない。

□参考ウェブサイト
『中田英寿』
『沢木耕太郎』


posted by 藤沢烈 at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 本の旅 ★★★★ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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