2009年03月06日

855旅 エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』★★★★★

「もし個人が自発的な活動によって自我を実現し、自分自身を外界に関係づけるならば、かれは孤立した原子ではなくなる。すなわち、かれと外界とは構成された一つの全体の部分となる。(略)かれは自分自身を活動的創造的な個人と感じ、人生の意味がただ一つあること、それは生きる行為そのものであることを認める」P289
エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』(東京創元社, 1951)

 ドイツ生まれの心理学者である著者による、なぜ人が自由から逃れようとするかを考察した名著。
 ヒトラー政権下のドイツを例に取り、自由を獲得した人々が進んで自由を放棄した理由を描写したことで有名。個人的には、その先の自由と安心感を両立させる方法を示していることに感銘を受けた。

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 近代以前は、個々人は不自由であるが安心できる社会であった。近代に入り、個人が目覚め、伝統的な権威(王や教会)から逃れようとする。しかし、自由であればあるほど、無力感・孤独感が強まることに人々は気づく。
 その後、特定の権威(ヒトラーや新興宗教)にすがったり、世間の常識に思考をゆだねて機械のように日々を過ごすようになる(自動機械)という。
 フロムは、自由と安心の両立を考えた。それは、「〜からの自由」ではなく、「〜への自由」。見知らぬ何者かへのチャレンジを行い続けるダイナミズムにおいて、不安は打ち消せると考えた。
 自分の心と頭を誰かにゆだねてしまうのが嫌で嫌で、とにかく自由でありたいと思っていた。しかし動きを緩めると、不安感が自分を打ちのめす。だから動き続けてきた。いつも慌ただしく、それが幸せかと問われれば分からない。ただ、動くしかないし、動かれさている自分を感じる。

□編集後記
自由でありつづける関係とは何だろう? 

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2009年03月02日

851旅 アインシュタイン『相対性理論』★★★★★

「同時刻という概念に、絶対的な意味を与えてはならないことがわかる。すなわち、ある座標系から見たとき、二つの事件が同時刻であるとしても、この座標系に対して動いている他の座標系からみれば、それらの事件を互いに同時刻に起きたものと見なすわけにはいかないということがわかる」p24
アインシュタイン『相対性理論』(岩波書店, 1988)

 特殊相対性理論のエッセンスの翻訳は岩波文庫から出ている。アインシュタインが起こした革命の論理は、けして難解ではない。

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 改めて、アインシュタインの主張を整理しよう。
 ニュートン物理学によれば、極めて早く移動しながら光をみれば、自分の早さの分だけ光は遅く見えるはずであった。しかし、実際には光は常に一定に見える。
 ローレンツはアインシュタインに先んじてその理由を説明した。それは、宇宙にはエーテルが充満していて、物体が移動するとエーテルの風におしやられて、その分移動距離が縮まってしまう。そのため、光が一定の速度であるように見えてしまう。
 アインシュタインは真っ向からこの論理に反対する。エーテルは存在せず、スピードが光速に近づくと時空間が縮まってその系の中では光の速度は一定に見える。その様子を外から眺めると、時間がゆっくり進んでいるように見えるとした。
 新たな発見は、それまでの常識を覆すことで生まれてきた。次に変更を余儀なくされる常識とは何であろうか。

□編集後記
My師匠、木戸さんにこれからの事を相談。何者でもないから、何者にもなれる。そうした在り方を学ばせて頂いた。さあ、三月。

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2009年03月01日

850旅 ミチオ・カク『アインシュタイン よじれた宇宙の遺産』★★★★★

「あの路面電車が時計台から光速で離れていくとしたらどうなるだろう?光は路面電車に追い付けないから、時計台の時計は止まって見えるが、路面電車の中の時計は普通に時を刻んでいるのではないか。そのとき、問題全体を解く鍵になるアイデアがひらめていた。『まるで頭の中で嵐が吹き荒れるような感じだった』」p42
ミチオ・カク『アインシュタイン よじれた宇宙の遺産』(WAVE出版, 2007)

 超ひも理論の第一人者であり現代理論物理学者のミチオ・カクによるアインシュタイン理論を分かりやすく説明するエッセイ。相対性理論が数式ではなくイメージから生まれたことが分かる。

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 特殊相対性理論もそうだ。ニュートン物理学によれば、自分が光速に近いスピードで追いかければ、光は遅く見えるはずであった。しかしマクスウェルの洞察や様々な観察結果から、自分がどんなスピードであろうとも、実際には常に光速は一定に見える。
 光速近くで走る当事者と、とどまって見ている観察者とでは、時間が異なるのではないか。観察者からみれば、光速に近づく人の時間はぐんぐんとゆっくりになっていく。そこにアインシュタインは気づくことができた。そうして、時間と空間が不変とみなしてきたニュートン物理学は崩壊したのであった。

□編集後記
本棚をさらに四台購入。これで1500冊ほど増強可能になった。読書スペースをもっとあげないと。



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2009年02月18日

839旅 井筒俊彦『語学開眼』★★★★★

「物を見る、そのたびに必ず単複を区別しなければ口がきけない。そんな妙な言葉を幼い時から話してきた連中の心の働きは、よほど変わっているに相違ない。我々日本人とは、微妙に、しかし根本的に変わった仕方で彼らは世界を経験し、違う形でものを考えているのに相違ない。(略)家に帰りついた時、私は興奮しきっていた。世界中の言語を一つ残らずものにしてやろう、などというとんでもない想念が心のなかを駆けめぐった」p179
井筒俊彦『語学開眼』(「三田文学」2009冬季号, 三田文学会, 2009)

 身体が情報を得て0.5秒後に、ようやく頭はそのことを認識するという。であるならば、井筒先生の文章は、私の身体に直接何かを届けている。理由が分からないが、先生の文章を読むと、つねに血が騒ぐからだ。
 三田文学の今の号が、井筒俊彦特集である。四人の方の評論を読み、井筒先生がまだ"生きている"ことが分かり、私淑している自分として今年一番の嬉しい一冊となった。若松英輔氏の文章は、井筒先生に似た何かを特に感じさせた。
 とはいえ、井筒先生の文章がBestであった。しかも井筒先生が言語に目覚めた瞬間のエッセイがあったのだ。

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 意外にも先生は英語が嫌いであったという。しかし、英語教師に「There is an apple.」と「There are apples」の違いを問われ、いずれも「リンゴがあります」と考えてしまったことから悟りを得たという。
 英語と日本語とで、使う文字や発音が違うのではない。世界の経験の仕方、思考の仕方そのものが全く異なっている可能性を直感したのだ。
 つまり、我々がふと「リンゴがあります」と言える認識を、英語を使う人々はけして持つことができない。彼らは「一つのリンゴがあります」あるいは「複数のリンゴがあります」としか理解できず、どちらでもない「リンゴがあります」と考えることは英語を用いる以上、永遠にできないことなのだ。

□編集後記
アダムは知恵を、ウィリアムテルは勇気を、ニュートンは物理法則を、リンゴから得た。この伝統に、井筒俊彦のリンゴを加えたい。彼はリンゴから言葉を、そして世界を得たのだ。

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2009年02月16日

837旅 ブライアン・アークハート『炎と砂の中で』★★★★★

「私たちが兵士たちに求めたのは、あらゆる伝統と訓練に反して、危険な状況下で非暴力活動に従事するよう求めたことである。そしてその活動は、何よりも自国政府の指揮を離れることであった。新しい平和維持活動は、軍の心理、国家主権、国内法及び国際法などの最も微妙な点に触れるものだった」p81
ブライアン・アークハート『炎と砂の中で』(毎日新聞社, 1991)

 国連第二号職員として、40年間国連で勤務し、主にPKO(平和維持活動)に従事した著者による回顧録。中東戦争、朝鮮戦争、キューバ危機からイラン・イラク戦争まで、戦後の主要な紛争に著者は関わってきた。現代の国際関係の現場を理解するために、必須の一冊といえるだろう。

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 五人の事務総長時代における主たる紛争戦争と、国連の役割をまとめた表である。国連としての軍隊は1956年スエズ動乱の頃がスタートであり、コンゴ、キプロスなどで展開されてきた。67年に国連軍が撤退した後に第三次中東戦争が勃発したこともあり、バランスをとる国連軍の存在感は大きい。
 著者が国連を去った後も、湾岸戦争、9.11、アフガニスタン、イラクへのアメリカの進出、そして今年のイスラエルによるガザ侵攻と、世界情勢は益々目まぐるしい。少なくともこの100年のスパンで、世界を眺めたい。

□編集後記
本日、国際開発プランニングコンテスト(http://www.idpc.in/)にてプレゼンテーションセッション。その場でもお伝えしたけれど、そこでであった将来国際社会リーダーと、一人でも多く近い将来再会して仕事をご一緒したい。

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2009年02月14日

835旅 ジョセフ・E・スティグリッツ『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』★★★★★

「グローバリゼーションは、民主主義とより大きな社会正義を求めて戦う活気のあるグローバルな市民社会をもたらすと同時に、世界の健康状態の改善をもたらした。問題はグローバリゼーションにあるのではなく、それをどのように進めるかにあるのだ。問題の一端は、国際的な経済機関、すなわちIMF、世界銀行、WTOにある」p305
ジョセフ・E・スティグリッツ『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』(徳間書店, 2002)

 クリントン政権や世界銀行に参画し、ノーベル経済学賞もとったスティグリッツによる、新自由主義を世界に拡げたIMFとアメリカ財務省を批判した有名な一冊。国際経済には疎かったが、スティグリッツの論点がよく理解できた。

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 IMFが進めるのは、貿易や金融の自由化、民営化など。注意したいのは、スティグリッツが批判しているのは、そうしたグローバリゼーションそのものではない。社会基盤が未整備な段階での、急速な変革に問題があるとする。
 アメリカ・イギリス・日本において、確かにグローバリゼーションは機能している。金融機関や社会的セーフティネットが成熟していたからだ。
 整備されていない中で自由化・民営化を進めたロシア、インドネシアでは、インフレが巻き起こり、失業率は二桁に至った。一方、漸進的に変化を進めた中国・マレーシアは安定した経済成長と雇用を維持できている。
 今回の不況により、経済を痛めた国家は多いだろう。過去の知見を踏まえた舵取りが必要になる。

□編集後記
月曜日に、国際開発ビジネスプランコンテストの参加学生向けに、プレゼンテーション研修を行う。国際社会で活躍する将来のリーダーに会えるのが楽しみだ。


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2009年02月13日

834旅 斉藤駿『小売の説得術』★★★★★

「『かくかくしかじかの特長によって、この商品は信頼できます』と説明する主体が信頼されて、はじめて、その説明も信頼される。語り手の主体が曖昧であれば、説明もまた曖昧に伝わる」p157
斉藤駿『小売の説得術』(ダイヤモンド社, 1998)

 カタログハウスの創業者、斉藤駿氏の一冊。インターネット販売に関わる人は必見。ネット販売の関連本は機能や見せ方は豊富だが、商品やセールスの本質に迫る本にはなかなか出合えない。カタログハウスを一代で300億超の企業に育てた本人による、理論と実践を聞くことができる。

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 「買ってもらえる」言葉とは、単純に説明が詳細であるかは関係ないという。送り手である自分(または会社)が信頼されること。また受け手である消費者の思いを深く汲み取っていること。
 「相手からの信頼」「相手の理解」。二つを想像し続けることが、通販に限らずあらゆる小売業において求められる。

□編集後記
 斉藤氏の本はどれも良いが、新書以外は絶版。いずれ注目されて値段が高騰する前に、購入することをおススメします。

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2009年01月26日

811旅 ジェイムズ・ヒルマン『魂のコード』★★★★★

「無意味という渦や浅瀬にあなたの舟を巻き込んでしまった無数のうねりを修正し、あなたのなかに運命の感覚を回復させよう。この感覚は多くの人々のなかで失われてしまっているが、それはどうしても回復すべき感覚だ。わたし自身の召命、生きる理由をぜひとも回復させなければならないのだ」p19
ジェイムズ・ヒルマン『魂のコード』(河出書房新社, 1998)

ユングの高弟である著者による、魂の心理学の決定版。全米ベストセラーになった一冊だ。「魂」を不用意に定義することなく、外堀を埋めるように理解を深めていく。分かりやすい本ではないが、インスピレーションを掻き立ててくれる。

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 まず、世の中の成り立ちは必然的と考える。そこに意味がないとみなせば、生物は利己的遺伝子が操作する機械にすぎず、全てに原因があると考えられる。意味があるとしても、世界の終末は決められているのであって、偶然おきたかに見える全ての現象は初めから決定づけられたたものとみなされる。
 あるいは全ては確率論的に生じているとしても、確率という決まりごとに操作されている運命論となる。
 ヒルマンは第四の道を想定する。確かに人は運命(ダイモーン)に立ち向かわされる。しかしそこでの選択は人に委ねられる。自分と、運命・召明あるいは共時性(シンクロニシティ)との衝突が、人生をつくりあげるのである。
 一粒のどんぐり(=魂)を誰もが持っているとヒルマンは考える。魂の叫びを常に聞きながら、人生の旅路を歩んでいくのである。

□編集後記
走らないと、あっという間に体脂肪率が2%上がった。身体は因果的に出来上がっているようだ。

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2009年01月11日

784旅 井筒俊彦『意味の深みへ 東洋哲学の水位』★★★★★

「イスラームの文字神秘主義やユダヤ教のカッバーラーの場合と同じく、真言密教においてもまた、存在世界は根源的にエクリチュール空間であり、そしてそのエクリチュール空間は、万物の声に鳴り響く空間だったのである」p277
井筒俊彦『意味の深みへ 東洋哲学の水位』(岩波書店, 1985)

 『意識と本質』の後に発表された、井筒俊彦先生による一冊。精神思想とコトバの関係を通じて、人間とは何かが探求されている。扱われているのも空海、荘子からイスラム神秘主義、デリダにいたるまで、まさに古今東西。しかも一つ一つが深い。

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 空海に関する節より。
 通常、世界があって人がうまれ言葉が生じたと考える。しかし、太古より言葉は存在し、言葉に従って世界や人間が生じているとの考え方がある。
 真言密教、イスラム文字神秘主義、ユダヤのカッバーラー神秘主義。いずれも、超越した存在(大日如来/神)が聞こえない・音にならない言葉/声を発しはじめ、それが分節されて意味を集めながら文字/アルファベットとなる。そして世界が創られると考える。
 ビジネスの世界に例えても、言葉がまずありきで、やがて現実の事業が生み出される。その言葉のの源をたどっても、閃きやインスピレーションといった、つまりは超越した何物かからやってきている。
 全ての人間が何気なく用いている言葉。この強さと意味の理解は、次の社会を考える上で学ぶべき必須事項である。

□編集後記
本著の書評。
http://www.wako.ac.jp/bungaku/teachers/tosyo/tosyo-tsuda01.html


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2009年01月04日

769旅その2 G.ベイトソン『精神の生態学』★★★★★

「学習Vがきわめて創造的に展開した場合、矛盾の解消とともに、個人的アイデンティティーがすべての関係的プロセスのなかへ溶出した世界が現出することになるかもしれない。(略)細微なディテールのひとつひとつから、宇宙全体の姿が現われでる」p415
G.ベイトソン『精神の生態学』(新思索社, 2006)

 久々に血が騒ぐ一冊だ。40年前のテキストなのに、現代が抱える問題を解くためのヒントが詰まっている。

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 学習パターンの分類が素晴らしい。
 ゼロ学習とは、対応できる環境も、とりうる自分の行動も固定的。すなわち決まったプログラムに沿ってのみ動く機械による学び。
 学習Tになると、環境/コンテクストに従って選択肢を変えることができる。しかし、行動パターン(選択肢群)そのものを変えることはできない。
 学習Uは通常の人間。環境にも自由だし、時に応じて行動パターンそのものを変化することができる。例えばある局面で学習Tを経験したことを、別の局面で応用し、より早く習得することができる。読書や経験で自己を変化させられるのは人間のみだ。
 さて学習V。自分の中の無意識の前提/世界観そのものを覆しえる人が一部いる。悟りの境地に達したような人だ。世界と自分にひそむ矛盾に対して、意識によって言い訳せず、敢えて背水の陣を引いて自らを追い込む。その後、無意識的に次元を変化させることができるのだ。ビジネスでも、修羅場に至ったリーダーが起死回生の一打を放つことがある。
 精神的に追い込まれた人が増えているという。近代の矛盾が高まっているからであって、逆に言えば次の時代にジャンプする一歩手前だと言えるのかもしれない。過去のルールに逃れずに、矛盾の極みに自分を飛び込ませてみる。

□編集後記
『慣れたらいかん。何であれ、習慣づいてしまったらおしまいだ』。ベイトソンが禅の老師から聞いた言葉だ。自分への戒めとしたい。



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2009年01月03日

769旅その1 G.ベイトソン『精神の生態学』★★★★★

「相手が言葉の意図を正しく識別するためには、直接間接に相手の表現について何かを言うことができなくてはならない。このメタ・コミュニケーションのレベルを、分裂症病患者はうまく用いることができないようなのである」p305
G.ベイトソン『精神の生態学』(新思索社, 2006)

 人類学・社会学・サイバネティクスの大家であるグレゴリーベイトソン。その30歳から66歳までの主要論文・講演の大半が収まったのが本著。700頁近くの大作である。
 その中でも最も有名なのがダブルバインドに関する論文である。

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 ある家族を観察する。母は、愛情ある親であるべきと考えるが、実際には子供が近づいても心底から受け容れることができない。父は、妻との関係が悪く、母子関係に立ち入ろうとしない。子供は母親の言動に対して、異論を差し挟むことができない。
 近づく子供を母親がつい避けた時。子供が空気を読んで身を引いても罰するし、身を引かなくとも罰してしまうことがある。しかも場面を変えて繰り返し繰り返し。
 進むことも戻ることもできないダブルバインド(二重拘束)に子供は陥り、結果的に分裂症状を引き起こすことがあるという。
 論理的解決が当たり前とみなされる社会において、ダブルバインドを乗り越えられずに苦境に陥る人は増えているだろう。

□編集後記
 私は母子家庭である。いつだったか、母親との関係が頭で全く整理できず、期せずして感情的になったことがあった。しかし以来、親との関係がフェアに考えられるようになった。思えば、その瞬間がダブルバインドを突破できた瞬間だった。



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2009年01月02日

766旅 アブラハム・H・マスロー『完全なる人間』★★★★★

「神秘的経験、宗教的経験、哲学的経験に属するものであるが、世界全体が一つの統一体にみられ、単一の豊かな生活実体として捉えられる。ところが別の至高体験では、大部分はとくに愛情経験や美的経験のものであるが、世界の一小部分がまるでしばらく世界全体のようにみられるのである」p112
アブラハム・H・マスロー『完全なる人間』(誠信書房, 1998)

 マスローは欲求段階説で有名だ。その最終段階である自己実現が利己的な内容と捉えられがちだったことから、至高体験という次のステップを想定していたことは知られていないだろう。

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 至高体験は要素還元できないし言葉にもできない事象であるが、あえて図示する。
 至高体験は、統合・単純にして真実を感じさせる。加えて美的・個性的であり、善・正義・ユーモアすらも感じさせる。
 全てが渾然一体となっており、同時に一つ一つに美しさを潜ませている。そんな状況を感じさせるのが至高体験ということになる。
 その意味では、生きることそれ自体も至高体験になるのだろうか。

□編集後記
 自己実現同様、「自分探し」も、利己的でナイーブな狭いイメージで捉えられている。マスローに言わせれば世界と自分は繋がっていて、共進化の関係にある。自分探し=「自分を深める」ことは、誰しもが意識すべきことだと思う。

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2009年01月01日

763旅その2 ジャック・アタリ『21世紀の歴史』★★★★★

「もともと地球規模の性格をもつ市場が、もともとローカルな性格をもつ民主主義の法則に背を向ける。クリエーター階級がメンバーである富裕層は、いかなる国に滞在する場合も、滞在先の市民としての忠誠心や連帯感をもつ気は毛頭無く、滞在を個人の契約として考える」p209
ジャック・アタリ『21世紀の歴史』(作品社, 2008)

 本著の第三章以降がアタリの骨頂。アメリカの終焉を予測したのち、2035年頃から世界は超帝国/超紛争/超民主主義の時代へ以降するとアタリは説明する。

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 国を超えた個人や企業はテクノロジーを活用して、独自のライフスタイルを築き始める。その流れに国家やその他中産階級も巻き込まれ、国や民主主義の役割はますます減るという。
 国の影響低下と下層ノマドの恒常化に伴い、国を超えた海賊や私設部隊が登場。協力な武器の登場と共に、世界の様々なステージで紛争が連続する。
 超帝国・超紛争によって人類は危機に直面するが、超民主主義という希望があるとアタリは考える。超ノマドの中で愛他精神をもつ人間や、社会価値を追求する企業らが、新しい価値観を模索するという。
 超民主主義のプレイヤーは、社会起業家たちが担う可能性がある。20世紀型の社会起業は、これまでの開発途上国の支援が主であった。21世紀では、これからの危機に対応する社会起業家が求められる。日本人はその役割を担える可能性がある。

□編集後記
 2009年の幕開けに最適な本でした。本著は、全ての社会起業家にとって必読書でしょう。

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763旅その1 ジャック・アタリ『21世紀の歴史』★★★★★

「市場の秩序は、常に一つの拠点を中心都市と定めて組織されてきた。そこにはクリエーター階級(海運業者、起業家、商人、技術者、金融業者)が集まり、新しさや発見に対する情熱があふれていた。この『中心都市』は、経済危機や戦争が勃発することにより他の場所へ移動する」p61
ジャック・アタリ『21世紀の歴史』(作品社, 2008)

 2009年最初の一冊はジャック・アタリ。38歳でミッテラン大統領の特別補佐官を務めたことで有名な、経済学者・思想家・作家である。昨年暮れにハンチントンが亡くなったが、彼ほど歴史的視座で世界を俯瞰できる人は他にいないのではないか。

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 市場経済が成立してから、産業・金融面での世界の「中心都市」が、いかに変遷したかをまとめた。
 船と印刷を武器に地中海地域が栄えたのが15世紀。その後、産業革命とともにアムス、ロンドンといった大西洋沿岸へと中心は移る。20世紀に入ると、大戦で疲弊する欧州にかわって、自動車・電機・情報通信産業を生み出したアメリカの各都市が世界の中心になった。
 中心都市の没落は、金融バブルや、戦争での多額の費用負担が原因であった。アタリが本著を出したのは2006年11月だが、既にアタリはアメリカの没落を予測している。アフガニスタンとイラクでの戦争負担が重く、昨年の金融危機、そして内政を重んじるオバマ大統領の誕生。いよいよ中心都市が移るタイミングなのだろうか。

□編集後記
明けましておめでとうございます。確かに激動の時代と言えるのでしょうが、数年ぐらいの揺らぎは気にせずに、100年単位での変化に注目する視点で臨みます。その為にもニュースは最小限にして、人が触れていない情報を求める一年でありたいと、考えています。

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2008年12月31日

762旅その2 井筒俊彦『コーランを読む』★★★★★

「あるときはベルの音のように啓示がやってくることもあるが、あるときはコトバが直接聞こえてくることもある。すなわち、天使(ガブリエル)が人間の姿で現れてきて、私に話しかけることがある、この場合は直接コトバの意味がすっきりわかる、というのです」p430
井筒俊彦『コーランを読む』(岩波書店, 1983)

 続けて『コーランを読む』。コーランは預言者であるマホメッドが、啓示を受けて綴られた書物である。では、そもそも啓示とは何か。

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 啓示とは神のコトバが預言者に伝わることを言う。預言者は着物を頭から被ることで啓示を受ける準備とする。その後、鈴の音のような形で啓示がくだり、気付くと意識の中でコトバに変化しているのだという。
 預言者の在りかたは、同じセム系宗教といってもユダヤ教とイスラム教では相違点もあれば共通点もある。
 ユダヤ教(旧約)では、近い将来に起こる事件を予言する役割をもつ。一方のイスラム教えでは、あくまで人々の現状に警告を発することが第一目的になるという。
 一方で、預言行為における神と預言者の近しい関係は、両者共通の特徴だという。
 啓示は現代科学で解明できることはないだろう。ただ、イスラムにせよユダヤにせよ、その世界観が現実社会を縛っているのも確か。一見宗教観がみえない日本人にも、祖先や自然を暗黙的に尊重するベースを持っている。
 21世紀を考える上でイスラム社会を捉えることはテーマの一つ。その根源であるコーランの理解はさらに深めていきたい。

□編集後記
髪を切った。

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762旅その1 井筒俊彦『コーランを読む』★★★★★

「『審きの日の主宰者』。(略)三つの単語をならべただけの簡単な表現のそこに、一群の強烈なイマージュがはたらいている。それを読みとるということは、この『審きの日の主宰者』というコトバをレトリック的に位置づけてはじめてできることなのです」p193
井筒俊彦『コーランを読む』(岩波書店, 1983)

 今年最大の一冊は『意識と本質』だった。その著者である井筒俊彦先生の本をやはり最後に読もう、ということで手にしたのが本著。凄い本であった。
 『コーラン』の解説書である。しかし、解説しているのは114章ある『コーラン』の中でも1章7行だけ。それを450ページに渡って解説している。範囲は恐ろしいほどに広く、深い。

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 三つのレトリックレベルに分類して読み進めることを井筒先生は解説する。
 一つは「レアリスティック」。誰もが認識できる三次元的な読み方。歴史的事実、人物、規則の説明がコーランには含まれていて、その場合はこの方法論を採る。
 二つ目は「ナラティブ」。時間・空間に制約されないパターンとして説明される。映画を見る時に「こんな話はウソだ」と評する人はいないが、その物語に人は感動する。
 三つ目が「イマジナル」。詩を鑑賞するような方法に近いだろうか。理性を飛ばして、無意識の衝動を呼び起こす読み方になる。
 こうした三つの観点を用いながら読むと、コーランの深い精神性が浮かび上がってくるのだという。
 聖典は時代を経ると、極端な部分が削ぎ落とされて無害だが効果の低い内容に丸まることがある。原物が残った聖典としてのコーランは、現代において意味を持つだろう。

□編集後記
普段は、同年代のベンチャー経営者や社会起業家の支援を行っている。10年前はネットワークを通じて。5年前からは経営を通じて。これからは思想を切り口にした支援ができないか、と考えている。そう思わせた一人は、井筒先生であった。

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2008年12月21日

741旅 金川千尋『毎日が自分との戦い』★★★★★

「塩ビは個人客を対象にした消費財とは異なり、顧客企業一社ごとに大量販売する汎用樹脂だから、そんなに人手はかからないはずだ。販売管理費が増えれば同業他社とのコスト競争上、不利になる。私が『二人で十分だ』と反論すると、今度は彼が『エーッ』と目をむいた。その他多くの意見の違いがあり、この社長に任せたのでは取り返しのつかないことになると思い、契約期間は二年だったが、違約金を払って一年で辞めてもらった」p117
金川千尋『毎日が自分との戦い』(日本経済新聞出版社, 2007)

 塩ビ事業世界トップの信越化学工業の金川社長による一冊。2008年まで13年連続増益であり、売上1.4兆、経常利益3,000億の世界を代表する化学メーカーに育成させた、プロ中のプロの経営者である。日経の「私の履歴書」に加筆した内容であり、淡々とした語り口だが、経験の重さがずしりと伝わってくる。経営に関わる全ての人が読むべき本だ。
 
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 金川社長の礎は、30-40代での海外経験にあった。そもそも信越化学に入社したのは36歳。その後海外を渡り歩き、現地法人とのJVを通じて事業拡大。国内の経営を任されたのは50代後半からである。
 その後は80年代を通じて社内改革を行い、90年代に入ってからは企業買収を梃子とした事業拡大を図る。結果として日本有数の大企業に至った。
 金川氏が社長に就任したのは64歳ではある。ただし、30-40代で海外を相手に豊かな経験経験を積み、50代で実質的に国内トップも任されていた。経営者を目指す上で大変参考になる。 

□編集後記
 師走の街中を走る。丸の内、銀座、築地、日本橋周辺を15km。H&Mもまだ行列。築地ではセリの見学が中止。

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2008年12月17日

734旅その2 東誠司『新化学産業創成のマネージメント』★★★★★

「この時期(工程開発ステージ)には、原単位の向上やプロセスの安定化などといった、それ以前の研究開発では未完成だった技術的課題に取り組み、工業技術として完成させるために通常大変なハードワークを行うことになる。プロジェクトのテーマ技術の研究開発という面では、このステージは最後の砦というべき段階であり、さらに工業化のための技術上の問題点の集中的な詰めを、この時期にすませておかねばならない」p141
東誠司『新化学産業創成のマネージメント』(化学工業日報社, 1999)

 販売に続いて生産要因についてまとめたい。

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 原料供給と、プロセス・オペレーションの二つの検討テーマがある。
 原料に関しては、応用研究段階で購入先のイメージを固め、その後セミワークスまでに季節的要因・容器といった詳細方針を固める。商業生産準備で物流や法務的な面で詰めていく。
 一方、運転・プロセスについても、応用研究段階でおおよその概要は検討済み。その後セミワークス段階で実際に運転検証を行い、その上で商業生産準備では本格製造に向けた準備を完了させる。
 応用研究で方向性を固め、資金投下手前の肯定開発段階で、検証を通じてGo/No Goを確定させていく。

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734旅その1 東誠司『新化学産業創成のマネージメント』★★★★★

「パイロットを動かして開発活動が展開できるようになると、供給できるサンプルの量も比較的多く確保できるので、販売要因からの事業性の見極めは一層進展する。(略)このステージでの販売要因に関する調査と検討は、製品が顧客に与える効用に主眼が置かれる」p144
東誠司『新化学産業創成のマネージメント』(化学工業日報社, 1999)

 著者は旭化成の元専務であり、化学産業における研究開発と事業化のスペシャリスト。理論と実務のバランスの取れた、素晴らしい著作だ。この分野では、米国MBAの必読書である"Successful Commercial Chemical Development"があり、この著者による訳本も出ているが、すでに絶版であり古本市場でも数万円する。
 研究開発に携わる実務家にとって、本著から多くの洞察を得ることができる。
 さて二回にわたって化学産業における研究開発・事業化の要因を見ていく。販売要因と生産要因に分かれるが、今回は販売側について。

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 事業化までのプロセスは四段階ある。研究開発テーマを選び、販売・生産の検討を行う応用研究(プリ・パイロット)段階。製造プロセスを検討し、製品用途・市場を見極めて事業性を検証する工程開発段階。既存設備を活用して製造テストを行うセミ・ワークス段階。フルスケール工場への投資を実行し本格的な販売活動を行う商業生産準備段階、である。
 販売面では、工程開発段階が一つのヤマ。顧客効用、価格、市場・競合といった側面を理解し、顧客側から販売希望が得られるかが、その先の投資に進めるかの分かれ目となる。

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2008年12月11日

719旅 本多勝一『ルポルタージュの方法』★★★★★

「効果的な部分だけをとりあげ、あとの材料は思いきって全部捨てる。そのかわり、とりあげた部分については、徹底的に微細に描く。具体的にどのように微細かはルポに書かれている通りですが、ひとことで言えば、それは読者がたとえば映画を見るように現場を想像できるような描き方です」p172
本多勝一『ルポルタージュの方法』(朝日新聞社, 1983)

 プロ経営者や社会起業家をケースにまとめる仕事が始めたいと思っている。ケースを別の言葉で言えばフィールドワークやルポルタージュになるだろう。本著はルポに関する一級の解説書であり、同時に企業調査などでも十分役立つ一品である。
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 本多氏によれば、ルポは企画/調査⇒取材⇒構成⇒執筆/発表の四段階に分かれる。
 企画段階で、他人と違う切り口を発見できるかが最初のヤマ。その後当然のように文献等で基礎知識を補う。コンサルティングプロセスにも近い。
 取材段階では、相手の本音の引き出し方が重要。相手の身内と同行するなどして取材を行う。
 構成は時間軸か問題軸で決まる。その内容では、引用したように映画のように頭にイメージが浮かぶことを意識する。
 執筆時は、全てを均等に盛り込まず、主要な素材に重点を置く。
 今後は経営コンサルタントを志す方にも本著を推薦することにしたい。

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