前回エントリ『1960年代から現代にかけての、地域コミュニティ政策の歴史』(
http://retz.seesaa.net/article/268285715.html )の続編となります。今回は、地域コミュニティの成功事例を紹介したいと思います。
なお、国内における自治会・町内会の数は30万弱(2008年時点)。行政の下請けに留まっていたり、担い手不足で機能していないケースも多いわけですが、求められる役割は増しています。震災復興の現場では尚更です。阪神大震災でも、行政がたてた復興計画をなぞるだけの自治会では復興に遅れが見られました。スピードを上げるためには、地域が主体となって、時に行政と議論を戦わせる必要があります。
意思ある復興コミュニティを作るために。事例をみていきましょう。
■企業連携と仕組み化〜『常盤平団地自治会』 無縁社会や孤独死が社会問題化しています。被災地でもそうですし、都市部の自治会・行政も問題意識はあります。しかし、なかなか解決できない現実があります。その中で、孤独死防止を日本で最も上手に実現できていると有名な自治会があります。千葉県松戸市にある、常盤平団地自治会です。
この自治会の特徴は、自分たち自身で全て対応しようとせず、周囲の企業と連携する点にあります。たとえば新聞各社の販売店と協定を結んでおり、配達の時に住民の新聞がたまっていたら自治会に連絡することとしています。また鍵屋とも覚書を交わし、非常時には無料で鍵を開けてもらえます。清掃協業組合とも提携。死亡された方がおられた場合の室内清掃やゴミ搬出を無料搬入で行います。身寄りのないお骨は、納骨堂に治める前に必ず自治会役員と都市機構職員が弔うルールにもしている徹底ぶりです。
行政に頼らず、しかし自治会が無理せずに、孤独死対策を実現しています。
■行政の巻き込み〜『大和市鶴間地区』 高齢化率の高まりの中で、地域の中で移動することが困難なお年寄りが増えています。その中で、独自に循環バスを運行させることに成功したのが、神奈川県大和市鶴間地区の7つの自治会です。
実現までのプロセスが参考になります。2008年10月に、7自治会が「乗合バス運行準備会」をまず発足します。その時には、超党派市議4名やNPOをアドバイザーにしました。その後2009年5月までに運行ルート案づくりと、住民説明会を実施。6月の試運転を経て、10月には大和市と協働事業としての協定締結を実現させています。そして2010年4月からの通常運行にこぎつけました。
必要な関係者を巻き込みつつ、最も重要な行政連携に必要なプロセスを意識しながら調整を進める様子がうかがえます。
■自主財源の確保〜『櫛原町柳谷町内会』 行政からの予算があてにならず、住民からの町内会費徴収も難しい昨今です。鹿児島県鹿屋市にある櫛原町柳谷町内会は、自らコミュニティビジネスを実施することで財源を確保しています。
町の中の遊休地をつかってカライモを生産。オリジナルの焼酎を販売して年間80万円の収入を得ています。また閉店したスーパーをギャラリーに改装し作品展示や活動拠点に。そうした活動により、2008年は800万円を売り上げました。町内会の活動費用、イベント開催、子供たちの寺子屋運営、独居老人向けの緊急警報装置も購入しています。町内会費も年7000円から4000円に減額し、2006年には一万円のボーナスを出したほどでした。
復興予算は数年で途切れます。コストとして使うのではなく、地域事業が成り立つための投資とする必要があります。
■若手世代を巻き込むマネジメント〜『立川市大山自治会』 コミュニティの中の代表性を維持するために、組織マネジメントも課題となります。高齢者ばかりで議論だけのサロンと化している自治会も少なくないでしょう。一方、運営方針の工夫によって、世代をこえた住民のコミットを実現させているのが東京都立川市の大山自治会です。
ここは、1200世帯の都営住宅にできた地域コミュニティです。多くのニュータウンがそうであるようにお年寄りが多く、高齢化率はすでに30パーセント。通常であれば高齢者ばかりの自治会になるところですが、自治会幹部の選び方を工夫しました。会長1名、副会長5名、会計2名について、30代〜70代の年代別に推薦投票を実施しています。仮に若者の投票率が少なくとも、意見が反映されるわけです。結果として、老若でまちづくりを進める雰囲気が醸成されました。
被災地では、若い世代の流出が大きな課題になっています。こうした手法を取り入れることで、若い世代が関われる地域づくりが求められます。
■情報発信が地域を動かす〜『平針南学区連合自治会』 最後は情報発信について。名古屋市天白区の、平針南学区連合自治会の事例が取り上げられています。
ここは2000戸の県営住宅につくられたものですが、当初は県の「御用自治会」でした。改革派自治会ができた1975年に発行されたのが平針ニュースです。自治会の危機に気づいていない住民に、状況を伝えるために作られた内容でした。
2009年段階で400号(!)も発行されていますが、コミュニティの質を改善する成果を出せています。例えば、団地内スーパーの価格が質に比して不当に高かった際、近隣4スーパーとの比較記事をニュースに掲載することで、結果としてスーパーのサービス改善を促しました。あるいは行政が錆びた水道管工事を怠ったために赤い水道水が出続けた時にも、水道料金支払停止をリードし、結果として県の行動を引き出しています。
■復興まちづくりの課題 企業や行政との連携。自主財源の確保。若手世代の巻き込み。情報発信。いずれも、被災地復興における大きな課題です。まだまだ情報も足らないでしょう。人手も足らないでしょう。単純にお金をつけて良しとせず、頭に汗を書きながら被災地コミュニティを支えることが、NPOなど外部支援者に求められています(5月3日)
■本日の一冊中田実・山崎丈夫『地域コミュニティ最前線』(2010, 自治体研究社)★★★★(1459旅)