2016年05月06日

保育園以上の問題とは何か〜『人事の潮流』(経団連出版, 1681旅)

「総務省によれば、2012年10月1日時点で家族を介護中の雇用者は240万人にのぼった。うち男性は103万人で、その六割が40-50歳代の管理職世代であった」p138
「やりがいのある仕事づくり三要素。第一が、仕事の意味や意義。第二要素が、エンパワーメント。その人にパワーを与えて、できるようにしてあげること。最後の要素は、リーダーシップ。重要なのは現場のリーダーシップである」p31

 17人の有識者による人材マネジメントに関する論考集。社会構造の変化によって、人事の扱いも変わる。世の中的には、お子さんを持った女性向けの制度設計についての議論が多いが、同じぐらいに問題になるのが介護である。保育園もそうだったけれども、介護の問題に対しての社会の準備も間に合っていない。
 あとは経営者として、スタッフにやりがいをもって仕事に当たっていくための工夫について、反省が多い。各プロジェクトの意味合いをもっと社内に説いていかないと。



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2016年05月05日

人口減少日本だからこそのイノベーションへ〜『日本型インダストリー4.0』(長島聡, 1680旅)

「IoTを用いて、開発・製造のリードタイムを短縮、コストを削減する。そして、付加価値の高い製品を提供し、マスタスタマイゼーションも行う。これこそが欧州のものづくりの目指す姿であり、そのために、一企業内にとどまらずサプライチェーン全体が一体となって最適な開発プロセス、製造プロセスを構築する取り組みなのだ」p104
「CTやMRIなどの患者の画像情報から症状とそれに適切な医者を見つけ出す。さらにその治療情報をビッグデータとして蓄積していき、診断精度を高める」p111
「従業員一人ひとりにより高度な働き方が求められるため、既存の労働者に対する育成や将来社会に出てくる子供たち、いわゆるデジタルネイティブの育成は政府が主導で行う必要がある」p125

 インダストリー4.0とは、ドイツが政府・企業が一体となって開始した製造業の変革プログラムのこと。しかしその流れは米国、そして全世界に飛び火していて、日本政府も取り込み始めている。
 この流れは様々な職業を失くしてしまうため、各国の労働組合の反発が予想されるし、各政府も導入は容易ではないだろう。ただし日本は違う背景がある。世界でもっとも人口減少が進み、しかも外国人労働力の確保も時間がかかるため、労働生産性を高める技術は歓迎なのだ。人口減少によって逆説的に日本は強みをもつ可能性がある。




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2015年04月13日

[読書] 物流からみた道路交通計画 (1610旅)

「震災復興の過程では、戦後の復興と同じように、食料供給、インフラ整備、産業復興が必要である。これらはいずれも円滑な物資流動が不可欠であることから、物流の重要性が再認識されたところである」
『物流からみた道路交通計画』(苦瀬博仁, 2014)

 東北の産業復興では、「人材不足」「販路回復」が取り上げられがちですが、実は物流が大きな課題になっています。3月21日に行われた三菱商事さんの復興報告会で行われたパネルディスカッションでも、会津中央乳業の二瓶社長は「地域の出荷量が減ったことで、同時に物流が減りつつあるのが問題」と指摘しました。また「東の食の実行会議」でも、かねてから物流問題を解消しなければ、東北の水産業の活性化はないと議論されています。
 一方で、東北では復興道路が多く建設されつつあります。この道路を、物流事業者とも連携しながら、いかに活用するかが急がれます。RCFでも、いすゞ自動車さんや行政機関の皆さんとともに、この問題に取り組んでいきたいと考えています。



□参考
「いすゞ自動車による本業をつうじた復興への取組。(3月30日)ー藤沢烈BLOG」
http://retz.seesaa.net/article/416483145.html
「3.11 復興道路・復興支援道路情報サイト」
http://www.thr.mlit.go.jp/road/fukkou/

■おしらせ
□資生堂と共に、大船渡の椿の里づくりコーディネーター募集中。4/24,25は東京で説明会→http://ow.ly/Lta5p
□5/30の社会的インパクト投資シンポジウムに登壇です
http://impactinvestment.jp/2015/04/529-302.html
□藤沢烈の新著が3月11日に講談社より発売されました。『社会のために働く 未来の仕事とリーダーが生まれる現場』。購入は→http://ow.ly/JI7F3
□RCFが受託している双葉町復興支援員の新規メンバー募集中です。詳しくは→http://rcf311.com/2015/03/19/futaba_bosyu1503/
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2012年04月24日

トヨタ財団さんの活動助成と研究助成に注目です(5月1日締切)

震災関連の助成金に関する情報提供をさせて頂きます。
トヨタ財団さんによる、「活動助成」と「研究助成」の2本です。なかなか応用範囲の広い助成内容になっています。5月1日が締切ですが、ぜひみなさんトライしてみて下さい。

■活動助成
 夏助成は上限300万円/件。期間は2012年8月1日〜2013年7月末まで。地域住民が主体となっており、かつ多様なメンバーの参加があることが助成要件です。冬向け助成は、8月に公募があります。
 また地域間連携助成が8月公募で予定されています。こちらは一件1000万/件。同じ課題を抱える地域同士が連携することで、成果が社会に広く波及することが期待されています。
 夏助成と地域間連携助成を同時に進められませんから、どちらに応募するかは判断が必要になります。
http://www.toyotafound.or.jp/program/community.html#kokunai_earthquake

■研究助成
 さらに、今回は「政策助言助成」も行われます。こちらも上限300万円/件。期間は1年または2年間。助成要件は「課題解決型の研究」と「成果の発信」となります。こちら研究助成プログラムの一環となっており、過去の助成事例は学術関係者が中心となっています。ですから、研究者向けなのかなと私も誤解していましたが、担当の方によればむしろ現場を理解している方による「政策提言」に使ってほしい、とのことでした。
 この一年間、現場で活躍したNPO・NGOは、被災地にいるから見えてくる政策課題に気づいているはずです。それを団体内に留めず社会に発信するためにも、こうした機会を活用頂きたいものです。
http://www.toyotafound.or.jp/program/research.html 

■基盤強化の必要性
 活動助成は団体の基盤整備にも使って頂くこともできるとのこと。私も民間団体をやっていて痛感しますが、通常の助成は使用目的が厳密になり、管理コストを見て頂けません。助成金ばかりで運営していると、少しのトラブルが団体運営に致命傷を与えてしまいます。一般寄付を集めるのも一考ですが、かかる時間以上に資金を集められるのは一部でしょう。そうした中、パナソニックさんの組織基盤強化支援(http://panasonic.co.jp/citizenship/pnsf/ )も有難いですし、トヨタ財団さんの助成金のスタンスも有難いものです。(2012年4月24日)
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2012年04月18日

組織から、個人の時代へ 〜政府政策の変化

 個人のために、国は長らく何もしませんでした。個人ではなく、組織にのみ対応してきたわけです。経産省は中小企業。農水省は農協や漁協。国交省は建設業界。文科省は学校。厚労省は病院。といった具合。あくまで組織を通じて個人をサポートするスタンスが確立されていました。

■生産者重視の時代
 そのため、起業家やフリーランス(今風にいえばノマドでしょうか)の支援は不十分ですし、学校から中退すれば教育支援はなくなりますし、各種業界団体に入っていない個人はサポートされません。先日、ある美容業界の方の話しを伺いましたが、業界団体の加盟率は4割程度にも関わらず、加入しているか否かで支援が変わってくるとのことでした。経済成長期であり、生活者(個人)よりも生産者(組織)を重視する時代が続いていたのでしょう。

■官も民も生活者重視へ
 湯浅誠さんもそうですし、最近の若いNPO/社会起業家も、国がなかなか進められない個人への支援を補う役割を果たしています。育て上げネット工藤さんは、定職につけない若者自立支援(http://www.sodateage.net/ )。NEWVERY山本さんは、漫画家の卵支援(http://www.newvery.jp/ )。フローレンス駒崎さんは働く親支援(http://www.florence.or.jp/ )といった具合です。彼らは事業を通じて個人支援を行うだけでなく、政府が個人支援に政策を移しつつある流れにのっとり、様々な形で政策提言も行うようになっています。
 政府も、個人向けの政策を開始しています。内閣府男女共同参画局(http://www.gender.go.jp/ )、共生社会政策(http://www8.cao.go.jp/souki/index.html )あたりで少子化、自殺対策、障害者施策、外国人施策などを扱っています。金融庁も業界保護から預金者保護に。また生活者保護を第一の任務をあげた役所として、2009年に消費者庁が発足しました。

■安倍首相から、湯浅誠さんへ
 歴代内閣の中で、こうした「個人」向けの施策を重視したのは誰か。意外かもしれませんが、安倍晋三内閣でした。彼は「再チャレンジ支援」を小泉内閣の官房長官時代から推進。就任直後の平成18年12月には、「再チャレンジ支援総合プラン」を策定しています(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/saityarenzi/hukusenka/dai2/siryou1_1_2.pdf )。
 経済的困窮者(フリーター、ニート、多重債務者や事業に失敗した人)。機会の均等に恵まれない人(子育て、離職、障害、暴力などの困難)。新たな暮らし方を選ぶ人(新しい人生を選ぶ高齢者。学び直しをしようとする社会人)が対象。省庁の縦割りをこえて、総合的に支援する内容でした。安倍内閣が一年満たず倒れたため、政策はストップ。しかし引き継いだ福田首相は「国民に新たな活力を与え、生活の質を高めるために、これまでの生産者・供給者の立場からつくられた法律、制度、さらには行政や政治を国民本位のものに改めなければなりません」と所信表明演説を行い、2009年の消費者庁設立へとつなげています。政権のごたごたで注目されていませんが、このタイミングで「生産者」から「生活者」へと政策の力点が変化しつつあったわけです。その流れの先に、湯浅誠さんの内閣府参与就任(2009年10月)や、内閣官房社会的包摂推進室の設立があります。

■復興は生活者目線になりえるか
 それまでは、個人の問題はあくまで企業や家庭が解決すべき事柄であり、行政が立ち入るものではありませんでした。ホームレス、自殺、児童虐待、少子高齢化の悪化の中で、行政が家庭や個人に関わりを持つようになったわけです。企業組織の余裕がなくなる中で、個人を支える社会づくりはますます必要になっていくことでしょう。
 ただし、震災復興の文脈ではまだまだ「生活者目線」とは言い切れません。現時点では、地方自治体、教育委員会、漁協・農協、中小企業、業界団体など、既存組織のサポートが政府としても主たる役割です。しかし、最終的には各コミュニティごとの個人的な繋がりが、合意形成を行う上での要点となります。そして被災者に気持ちに寄り添うためにはNPOが有益です。その良さと課題には注意しつつ、NPO、行政、企業の連係事例創出を図っていきたいと考えています。復興庁の岡本統括官も、インフラに限らず被災者個人の生活を重視することや、NPOの役割に理解を示して頂いています。(4月18日)

■参考文献 
岡本全勝「再チャレンジ支援策に見る行政の変化」『地方財務2007年8気号』(ぎょうせい)

※今晩は、田村さんと共に、岡本統括官と一献させて頂きました。4万人の霞が関官僚の中で、実名で10年以上ネット上で発言されているのは全勝さんのみです(twitterやfacebookの登場で少しずつ増えているようですが)。その発言を、ぜひ注目頂きたいと思います(私はiPhoneのホーム画面に登録し、毎日見させて頂いています)
http://homepage3.nifty.com/zenshow/
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2012年03月31日

若手リーダーにみる当事者性〜"ニッポンのジレンマ"より


「ニッポンのジレンマ」という正月にNHKで放映された番組があります。駒崎弘樹さんや猪子寿之さんら20-30代の若手論客が集い、日本が抱える問題について討論した内容です。祥伝社から書籍化もされています。ちょうど今晩、その第二弾が放映されるということで、書籍から面白いと思った内容を紹介したいと思います。

■問題に正面から向かう〜萱野稔人さん・飯田泰之さん
12人の中では、哲学者の萱野さんと、経済学者の飯田さんの議論が特にソリッドで好きです。引用します。
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萱野「規制をする国家と自由に行動する個人、という対立図式は、国家の位置づけとしてあんまり正しくありません。社会の仕組みをつくったり、ルールを変えていくという場合、国家と個人は対立しているわけではないからです。逆に、個人のほうに、社会をデザインしていくことへの当事者性がないことのほうが問題です」p190
飯田「ごくごく小さい自治体の重要性と、県という単位の微妙さというのを、非常に多くの現場の方が感じているようです」p168
飯田「事後規制というのは、失敗したらペナルティがあるれど、お前がいけると思ってやっているんだから、まずやってみろという。これはいろんな業界で重要になってきている」p170
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 萱野さんはほかに年金問題を取り上げ、「経済成長が困難な前提で、社会保障を賦課方式から積立方式に移行すべき」との正論を主張し続けます。飯田さんは、事前規制ではなく事後規制という、自由だが責任も大きい在り方に変えよと主張します。同意。最近の、レバ刺しや柔道規制問題にも通じます。個人一人ひとりが責任をとることを放棄し、政府に責任を求めすぎることが問題の根本にあると私は捉えています。

■当事者性を持つ〜城繁幸さん・駒崎弘樹さん
 さて、あとは人事コンサルタントの城さんと、フローレンス・駒崎さんの意見を取り上げます。
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城「議会の質問で、ちょっと若者向けの発言をした政治家が自分の選挙区にいれば、『よかったですよ、この間は』みたいなことを言ってあげるだけで、ずいぶん風通しがよくなるんじゃないか」p200
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 「自分の意見に近い政治家を応援すべき」とのスタンスも勉強になります。よく、「日本を良くするならば政治家」になるべきと考えたり、勧める人もいます(「政治家にならないの?」なんてたまに私も言われることがあります笑)。しかし、それは違うと思うのです。「ネット選挙解禁が必要だと思うなら、A議員を応援しては」。「年金を積立方式に変えたいと思うならB議員を応援しよう」というように、個別政策を進めている代議士らを固有名詞で理解する必要があると思うのです。政策が曖昧な中で政治家になろう、というのは空虚であるように感じます。
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駒崎「企業であったり、NPOであったり、あるいは名もなき市民たちであったり、そういうように総動員戦である種、震災と闘った時期があったのではないか。ここに僕はヒントがあるような気がしてなりません」(p167)
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 そして駒崎さんの言葉に感銘。番組の他の参加者の言葉からも感じましたが、「当事者性」が新世代のキーワードなのだと思います。番組や本の感想を見ると、「現状分析に終始していて、具体的な提言がなかった」などと書かれています。こうした声こそが当事者性のなさの象徴であって、その反映として今の政治やメディア環境を作っているのではないでしょうか。しかし12人の論客は、自分たちは当事者性をもてるという明るさを持っています。年金問題や経済成長や震災復興も、自分たちが変えていけるという、気概がそこにあります。

 では課題は何か。私は、"当事者になったからこそのジレンマをいかに乗り越えるか"ではないかと思うのです。その事については次のブログにて。昨日話題になった、前・内閣府参与の湯浅誠さんのインタビューから、かんがえてみたいと思います。

■参考文献
祥伝社『徹底討論!ニッポンのジレンマ』(2012)


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2012年03月22日

災害救助法から見えてくる、官民情報連携の必要性

 今日は「災害救助法」について整理したいと思います。
 自衛隊やボランティアも重要ですが、発生直後に大勢の人が救われるのはこの法律のおかげです。避難所、仮設住宅、食事の提供、医療の提供などを自治体が実行し、また国がすべての費用を見ることを保証しているからです。とはいえ、制度の限界や課題もあります。東日本大震災の緊急期は過ぎましたが、日本における災害対策を考える方は、必ず知っておくべき内容です。今回は、『「災害救助法」徹底活用』(津久井進ほか, 2012)という渋めのタイトルの本をベースに、論点整理してみます。

■特別基準により、柔軟にカバー

 災害救助法は、33条からなる短い内容です(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO118.html )。しかし対象は幅広。避難所、仮設住宅、炊き出し、被服、医療、救助、住宅応急処理、埋葬などすべてが関わってきます。被害は事前に想定できませんから、毎回状況に応じて"特別基準"が設定されることになります。例えば、昨年の震災で通知された内容例を挙げてみましょう。
1「災害救助法の救助費用は、東京電力福島第一原子力発電所の周辺区域からの避難者か否かに関わらず、受入れ都道府県から被災県に全額求償できる」(4月4日)
2「都道府県が民間賃貸住宅を借り上げ、現に救助を要する被災者に対して提供した場合、災害救助法の対象となり国庫負担が行われること」(4月30日)

 原発被害によって長期県外避難が強いられたのが今回の震災の一つの特徴です。1の通知によって、全国自治体が避難者を受け入れやすくなりました。また今回は津波被害により、仮設住宅を建設する立地が大幅に不足。そのため、借り上げ住宅も災害救助法が適用されることが、念のため確認されています。

■市町村職員が基準を担うことによる限界

 特別基準を、スピーディに柔軟に適用することがポイントになるわけですが、そこに課題もあります。やや長くなりますが、本から引用します。
「被災地・被災者のニーズを的確に把握し、一般基準によって充足ができるのかを判断し、できない場合は、特別基準の設定を検討する。市町村並びに都道府県の職員がどこまで被災者のニーズを把握できるのか、そして、ニーズを特別基準として設定することの必要性・合理性をどこまで説明できるかがポイントとなる」p43
「特別基準を設定するといった弾力的な運用が可能であるとしても、1.現場の職員が特別基準の存在自体を知らない、2知っていたとしてもどのような特別基準を設定すればいいのかわからない、3特別基準を設定したくても上級の行政機関を説得させるだけの理由が見いだせない、4現場自体が上級の行政機関に交渉をするというのはそれ相当の精神的負担となる、5都道府県からすれば、特別基準を設定すると余計に費用がかかるという金銭的負担がある、というように、なかなか特別基準が設定しにくい環境ができあがっている」p44

 上記のように、特別基準を検討するのは、市町村職員となります。しかし、災害対策法のことに詳しい職員には限りがありますし、そうした職員が被災者のニーズをきっちりと吸い上げることは容易ではないでしょう。私が必要だと考えるのは、NPOをはじめとした民間が現地の状況を理解し、行政と連携しながら特別基準に関する要請を、県や国に出していくことです。

■民間と行政による、情報防災訓練が必要

 つなプロ(被災者をNPOとつないで支える合同プロジェクト)という取り組みがありました。宮城県すべて400カ所の避難所を回り、被災者のニーズを吸い上げ、専門NPOがその支援を行うというもの http://www.hnpo.comsapo.net/portal/tsuna-pro/portal.index 。RCF復興支援チームも当初から関与していて、現地からあげられるデータを分析し、提言する役目を担っていました。食事・衛生環境の悪さ、トイレの不足など、避難所での困りごとをいち早く理解していたのは、行政よりも、つなプロでした。今から考えると、基礎自治体や県との連携があれば、国に対して特別基準の要請を早期に出せていたように思います。私自身も内閣官房ボランティア連携室に所属していましたから、そうした提言も可能だったでしょう。
 東京で首都直下地震が発生した場合、自治体機能の劣化が予想されます。東日本大震災同様、被災状況をつぶさに理解するためには、つなプロのような民間の取り組みが再び求められるでしょう。その際には自治体と連携し、災害救助法とのリンクが図られる必要があります。
 民間/ボランティアの取り組みとして、物資支援や義援金や炊き出しも重要です。しかし、行政だけでは担えない「情報の把握」も民間だからできることがあります。情報という観点での"防災訓練"を、民間・行政で実施する必要が、今から・今すぐ求められるでしょう。



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2012年03月18日

水産加工業からはじまる東北復興

■水産加工業の復活が、復興のカギ
 水産加工業の復活が、東北復興への主たる課題です。漁業は付加価値が高くなく、雇用を広げることはできません。気仙沼では、一次産業従事者は2700人ですが、二次産業は7300人。そのうちの7割は水産加工関連です。製造品出荷額1100億のうち、約1000億も水産加工。
 震災当初は、漁業にくらべて水産加工の行政支援が手薄だとの意見もありました。これは改善しています。特に、中小企業グループ施設復旧整備事業、いわゆるグループ補助金がポイント。サプライチェーンや地域雇用を支えることを認定されると、国が1/2、県が1/4補助するというものです。
http://j-net21.smrj.go.jp/watch/news_tyus/entry/20111216-05.html
 また、国は資金を提供し、県は戦略を検討するという役割も一定量果たしています。例えば村井嘉浩・宮城県知事は、県内142漁港の中で、気仙沼・志津川・女川・石巻・塩釜を戦略的な漁港に設定。集中的に整備を行いつつあります。

■100人のコーディネイト人材
 では残された課題は何か。私は、民間事業者が長い目線でのビジネスプランを描くことにあると考えています。単独事業者では再建は困難です。漁業者、行政、東京など販売先などの関係者と利害を調整しつつ計画を練らないと、復興資金や民間資金を融通することはできません。
 もちろん、関係者どうしのコーディネイトができる人材は限られています。被災地では、既に要職を担っています。東京など、被災地外から人を送り出すことが求められているわけです。漁業支援をご一緒している茂木さんが昨日下のイベントで登壇しましたが、登壇物みな、同じ問題意識を持っているとのことでした。
http://www.ginza-fukkou.jp/news/index.cgi#news_31
 ところで茂木さんはマッキンゼー→リンクアンドモチベーション執行役員を経て、水産業復興に注力されています。温和な人柄と、堅実な実務を兼ね備えた素晴らしいリーダー。RCFもいつもお世話になっています。熱いブログを綴られていますので是非ご一読を。
http://motegi-takahito-spp.seesaa.net/article/255037931.html

■国ではなく民間からの復興を
 もちろん国や県に期待される向きもありますが、個別事業者のサポートをする役割を官僚が担うことはできません。国税が投入されることに私は疑問があります。
 まずは、民間同士での復興支援を。事業推進できる若い人材が現地に入ること。その人数は100人程度でも大きなインパクトがあると思っています。そのための制度もあります。その仕組み作りに、奔走していきたいと考えます。

■1436旅 村井嘉浩『復興に命をかける』★★★
「特に規模の大きい漁港(気仙沼・志津川・女川・石巻・塩釜)五港を集積拠点漁港と位置づけ、冷凍・冷蔵施設、水産加工業といった施設と一体となった漁港整備を最優先で行い、水揚げと水産加工業の仕事を確保します。次に、沿岸で漁船を使って漁業を行ったり、養殖業を営む人たちのための漁港を、142漁港のうち4割程度に集約しながら整備します」p80


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2012年03月17日

「被災者から変わる必要がある」、という言葉の意味。 〜戸羽太『被災地の本当の話をしよう 陸前高田市長が綴るあの日とこれから』★★★(1435旅)


■「被災者から変わる必要がある」
昨晩は、神奈川県主催の「被災地支援のこれまで・これからを考えるinかながわ」に登壇させて頂きました。
http://ksvn.jp/news/event26495.html
パネルディスカッションの進行役を仰せつかったのですが、石巻で被災された事業者の言葉に感銘を受け、予定してはいなかったものの、何度かコメントをお願いしました。とくに心に残ったのが、「被災者から変わる必要がある」との言葉。ご自身、これまでは牛角を二件経営されていましたが、今後は新しい業態進出にチャレンジされるとのこと。インフラから市場から激変してしまった石巻だからこそ、従来通りのビジネスでは成り立たない。そんな危機感を共有頂きました。

■三年後の養殖回復までに取り組むべきこと
 さて、今回読んだのは、陸前高田市長による一冊。この本の中で陸前高田市内のがれき処理専門プラントに関する話を市長が出されたため、ネット上で「陸前高田市長は広域瓦礫処理を望まない」という誤解が流布しました。こらちは、市長自らがFacebook上で否定をしています。
http://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=189764664466799&id=100002998015128
 その事はさておき、陸前高田の復興展望についてまとめている点に注目しました。陸前高田でも水産は重要産業ですが、養殖の売り上げが戻るには2-3年かかる。漁師の生活費は緊急雇用で何とかなるかもしれません。しかし取引先がよそから仕入れ始めた場合、簡単に戻るわけにはいきません。他地域と連携しながら、取引先との関係を継続する。あるいは、新しい事業への進出を真剣に検討する。その事が必要なタイミングなのかもしれません。石巻の方が決断したように。

■引用
「陸前高田ではカキやホタテ、ワカメ、エゾイシカゲ貝などを生産していました。しかし、津波が引いた時にたくさんの瓦礫が海に沈んでしまったため、まずは海中の瓦礫を取り除かないことには再開できません。(略)カキなどは養殖イカダをすべて流されてしまったので、またゼロからのスタートとなります。今新たに養殖をスタートさせると、最初に出荷できるのは三年後・・つまり来年も再来年も所得がまったくないということになります」p132
「私は津波の心配が少ない高台に土地を確保できるのであれば、まず中心に医療と福祉の充実した施設をつくりたいと考えています。高田病院が津波で壊滅状態になってしまったので、遅かれ早かれ、新しい医療施設を作らなくてはなりません。ならば、その施設を新しい町作りの軸にしてはどうかと考えています」p109


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2012年03月15日

原発被害の賠償問題は始まったばかり   〜卯辰昇『原子力損害賠償の法律問題』★★★(1434旅)

■福島被災者を悩ます賠償問題
震災から一年が経ったが、福島では元の住所を離れて避難生活を送られている方は15万人。県を離れているのは6万人を超えています。岩手や宮城で被災された方同様に、やがては自立した生活を皆さん目指されています。ただし福島が特別なのは、元の土地に戻りがたい状況や、原発による健康被害を気にせざるを得ない点にあります。事業者は風評被害もあります。様々な意味でご苦労されている中で、東京電力からの賠償も、皆さんの頭を悩ます大きな問題です。報道にあるように、賠償情報が伝わりにくかったり、求められる書類が複雑すぎたり、被災者にとって不利な内容も少なくないとのこと。
なお、福島原発20km圏内を中心とした避難区域の方々と共に、福島23市町村における自主避難者にも賠償する方針は既に東京電力が打ち出しています。
http://www.asahi.com/edu/kosodate/news/TKY201202280725.html
同時に、賠償問題のヤマはこれからになります。卯辰昇氏によれば、スリーマイル島事故後は、幾つもの訴訟がアメリカでは提起されたそうです。福島でも、時間を経るに従って訴えのパターンは広がることでしょう。
改めて、福島の問題はまだ始まったばかりなのだと、思わざるを得ません。

■引用
「原子力事故に起因する損害賠償問題、核廃棄物処分をめぐる問題等、米国では多様な訴訟が提起されている。わが国でも福島原発事故を契機に、米国同様の訴訟が提起される可能性があり、本書では、米国での原子力関連訴訟についても紹介する」p2
「中間指針追補においては、福島原発からの距離ではなく、自主的避難等対象区域を福島県内の23市町村とし、自主避難者に対し一律、定額の賠償を認めるものとした。(略)2011年12月末までの個々人に対する賠償として、18歳以下の子どもおよび妊婦が40万円、その他は8万円とするものである」p192


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2012年03月11日

1432旅 石巻日日新聞社『6枚の壁新聞』★★★

「これまで長い間、この地域に生かされてきた私たちが、今こそ地域に対して『できること』『やるべきこと』は何か、という命題を突きつけられました。その答えは、明白でした。記者の気持ちも、同じでした。『地域の人たちから必要とされる情報を、きちんと選び、しっかりと伝えること』。それが我々の存在する意味だと、改めて実感しました」p4
「社内に戻ると、武内報道部長がラジオに聞き入っていた。石巻日日新聞一筋31年、新聞記者魂を糧に生きてきた彼に、手書きの壁新聞を発行することがすぐに切り出せなかった。しばらくためらったが、『休刊はしたくない。手書きでいこうや』と言うと、ふたつ返事で『やりましょう』と答えてくれた」p23
「あの日、私たち自身もそうした暗闇の中にいたが、じっとしていられずに、ひたすら動き回った。そして見聞きしたことを、記事と言うよりもメモとして壁新聞に載せた。(略)いまだに、闇の中にいる人も少なくない。震災前の普通な生活が戻り、この石巻地方で暮らしていた人たちの心に、再び明るい光が広がる日を目指して、情報を送り続けていくのが私たちの仕事だ」p237

■概要
 宮城県のローカル紙、石巻日日新聞。本社も津波に襲われ、電気も繋がらない中、手書きの壁新聞を6日間出し続けた。話題になったので目にした方も多いだろう。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2623226?tocOpened=1
 記者自身も被災した中で、壁新聞を出し続けた理由は何であったか。被災直後の取材風景が書かれた3章を中心に、新聞社自らが編集した一冊。

■復興に必要な"記者"という存在
 社長からの指示がなくとも「被災した市民に情報を伝えなければならない」との問題意識を、社員全員が持っている様子が圧巻だ。
 石巻日日新聞は丁度2012年に100周年を迎える中で、地域コミュニティと強い関係をつくられていたという。そうした中で、購読料や広告料が入らなかろうが、地域に情報を届ける使命を持てたのだろう。
 震災から一年経過した今、復興にむけた情報が地域コミュニティに十分届いていない現実も続いている。地域メディアがミクロマクロ双方の復興情報を届けることが必要となる。その際に、地域を理解し、情報の必要性を熟知している"記者"が現地に求められるのだろう。
 国立国会図書館でアーカイブされているように、6枚の壁新聞は津波の過酷さを伝えるものとして、永く後世に語り継がれるものになる。


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2012年03月08日

1431旅 『阪神大震災 市民がつくる復興計画』★★★

「三年間の復興事業は、高速道路や港の岸壁を元通りにしたが、生活再建の視点から見れば、文化も福祉も経済も住宅も、大地震の前に比べて落ち込んだままだ。政治家や官僚が考える復興と、私たちが願う復興はどこか違っているのではないか」p1
「日本はいま『中央集権型社会』から『分権型社会』への転換期にさしかかり、震災は復興のあらゆる分野で『分権』と『参加』の課題を突きつけている。復興のすべてのプロセスの中で、住民参加のまちづくりの質が問われているわけだ」p22
「これまでの住民組織といえば、行政の下請け機関か、行政の事業に参加させてもらう『住民参加』型にとどまるところが多かったが、いま、多くのまちづくり協議会は、住民が発想し、企画し、運動していく中で、行政にも参加を求め、支援を引き出すという『住民主体』型に進んでいる」p143

■概要
 被災地自治体による復興計画は昨年末に出そろった。しかし、地域住民が自発的に復興を考えることがこれからは求められる。阪神大震災において、市民とNPOが自ら作り上げた計画をまとめたのが本書。「教育・文化」「医療・福祉」「働く場」「住宅」「まちづくり」の五分野に分けられて、地に足が立った計画になっている。もうじき震災発生一年目。復興支援にたずさわれる方は、これからコミュニティが目指すべき方向性を考える上で読んでおきたい一冊だ。

■復興は誰が担うか
 引用した最初の文章を読むと、残念ながら東日本大震災でも3年経てば同じ文言に突き当たるように思う。5年19兆円設定された復興予算でも、このままでは道路や箱物ができて終わってしまう可能性は高い。
 ただ一つ思うのは、中央政府や政治家や官僚が復興の主役ではない、ということ。まずは被災地の方々自らが復興の絵を考えなければならない。もちろん現地の人手は十分ではない。とすれば、体力ある全国の若者が被災地に集結し、代わりに計画を練ることに汗を流す必要がある。
 住民が主体となって復興を考えるケースも続々と生まれている。そうした流れを拾い上げ、後押しをし、横に広げていきたい。今日は復興庁統括官と共に、大手企業経営陣とディスカッションを行った。また大船渡でのコミュニティ形成に向けた新しい取り組みを、岩手の方々とskypeで議論を行っている。動きをさらにさらに加速させます。
 二年目の3.11まであと3日。


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2012年03月05日

1430旅 関満博・遠山浩『「食」の地域ブランド戦略』★★★

「2006年4月には商標法の一部が改正され、『地域団体商標制度』が新たに創設されたことが大きい。この制度は、地域ブランドをより適切に保護することや地域経済の活性化を図ることを目的にしている。これまで地名をつけた地域ブランドには大きな制限があったのだが、今回の制度創設により一気に地名入りの『地域ブランド』が全国各地に登場してくることが予想される」p1
「これらの(ブランド化された)事例には共通点が三つある。第一には、地域外部の評価や情報を上手く活用している点がある。第二には、官と民の絶妙な役割分担が地域の盛り上がりにつながっている。第三の共通点としては、参加者が広く多数集える『場』として、参加者の中でも特に消費者との緊密なコミュニケーションの『場』として、街並みが機能している点があげられる」p232

■概要
 2000年から施行された地方分権一括法により、地方が国に頼らずに自立する必要が生まれた。その背景もあり、2006年の地域団体商標制度創設によって、地方は食・街並みのブランド化を目指すことになる。
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou.htm
 そうした背景と実例を紹介したのが本著。東北復興でも、食のブランド化によって地域自立を図ることが必ず求められる。先行事例と成功の要諦を理解するために読んでおきたい。

■ブランド化される共通点とは
 成功した地域ブランドの共通点が三つあげられている。震災復興に応用させたい。
 一つ目。被災地だから復興だからではなく、大船渡や気仙沼という地名によって水産物等の名産品が想起される必要がある。二つ目。現在は産業振興において官民連携が図られているのは、宮古市ぐらいだろうか。一昨日テレビ番組で大槌町の町長が話すことばに対して、若い漁業者が涙を流しながら「話していることを信じたい」と語られていた。もっと市町村と事業者が一体化する必要があるのだろう。そして三つ目。生産者と消費者がコミュニケーションできる「場」の必要性。場とはリアルもあればネットもある。作り手の想いをダイレクトに感じ取れる場として、地域の体験型飲食店や東京でのテナントショップが求められる。
 RCFは水産業支援に取り組んでおり、今日も宮古にスタッフが二名出張している。どうすれば地域ブランドができるかを深く考え続けたい。


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2012年03月04日

1429旅 佐久間健『CSR戦略の方程式 ホンダとリコーの地動説経営』★★★

「(ホンダの)東京青山の本社ビルも宗一郎の地域社会への配慮を見せたものである。青山の本社ビルは奥へ少し引っ込み、建物が丸みを帯び、交差点の見通しをよくしている。ビルの外側はすべてベランダで囲まれている。これは地震が起こったとき、ガラスの破片が落下し、道を歩く人々が怪我をしないようにとの設計だ。ビルには災害を想定し、一万食の食料と飲料水が用意がされて、地域住民にも供給できる準備がされている」p107
「リコーの環境経営について桜井社長(現会長)は次のように言っている。『環境保全はリコーグループの使命で、継続して行うことに意味がある。継続的活動は企業の成長と発展があって初めて実現できることであるそのめには、環境保全を通して新たな経済的価値を作り出していく必要がある。これを環境経営という。リコーグループは全員で環境保全活動と利益創出の同時実現に取り組んでいく』」p232

■概要
 ホンダ、リコーという社会貢献を経営に高度に取り込んだ二社を取り上げ、CSR経営とは何かをまとめた一冊。二社の歴史、各経営者の視点、ステイクホルダーとの関係を整理。ブーム的で特定の部署だけが関与する社会貢献ではなく、経営の根幹にCSRが根付いていることがよく分かる。震災もあって社会的責任を果たすことがさらに注目を浴びつつある昨今。企業経営者・担当者や、企業と連携するNPO・行政関係者は読んでおきたい。

■大手企業がCSR経営を実現するためには
 ホンダ共同創業者である本田宗一郎、藤沢武夫はいずれも企業が公的な存在だと考えていた。その現れが本社ビルの扱い。目立つ存在にしたり、社員にとっての快適さを目指すだけではなく、地域住民の環境や防災対応にも意識が向けられていた。リコーも、歴代経営者それぞれが強くコミットしていたからこそ、社会貢献と経営戦略の両立による環境経営を実現させている。
http://www.ricoh.co.jp/ecology/
 大手企業がCSR:経営を手にするには、創業理念に立ち返って社会貢献と経営戦略を融合。そのうえで経営トップがその実現に強く関与することが求められるだろう。東北ないし地域復興を事業の柱にすえる会社が現れないものかと、考える。


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2012年03月02日

1427旅 岩手県大船渡市『新生・大船渡市の誕生』★★★

「大船渡市は、昭和27年に7町村が合併して誕生し、これまで港を活かした工業・水産業の沿岸都市として発展してきた。三陸町は、昭和31年に3村の合併により誕生し、豊かな海を活かした水産業のまちとして発展してきた。平成13年11月15日、大船渡市と三陸町とが合併して、人口約4万5千人の新生・大船渡市が誕生した」p13
「将来的には2市2町(大船渡、陸前高田、住田、三陸)の合併を念頭におきながらも、交流が活発に行われている両市町(大船渡、三陸)の合併を推進し、海という地域素材を生かした三陸沿岸の拠点都市を目指していくことが、この地域の発展に寄与するものと考えます」p207

■概要
 旧大船渡市と三陸町が合併して、2001年に新・大船渡市が誕生。その合併に向けた大船渡市議会や岩手県議会での討議の内容、市民/町民懇談会における資料、合併後の行政計画などがまとめられた一冊。大船渡における各地域の特徴を理解するために手に取った。

■大船渡市のこれから
 大船渡市は岩手県一の港区を抱えていて、工業・水産業が発展していた。三陸町は豊かな海を背景とした漁村が集まっていた。二つの地域が融合して発展することを目指していた矢先に起きたのが震災である。
 大船渡市・陸前高田市・住田町は、気仙広域連合としして、将来的な合併も視野に入っている。「環境未来都市」のモデル地区にも認定されて、コンパクトシティ/ICTを活用した都市作りも目指されている。
http://futurecity.rro.go.jp/teiansyo/kesen-koiki1.pdf
 こうした広域行政の方向性を理解するとともに、数千人単位のコミュニティが望む姿をつなぎ合わせる事が必要になる。RCFとしては、地域の歴史を理解しつつ、企業や個人による支援を繋げていきたいと考えている。

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2012年02月29日

1425旅 長坂寿久『NGO・NPOと「企業協働力」』★★★

「70,80年代の米国の経済社会の後退の中で、米国の再生と企業の健全な発展のためには、地域社会の向上が必要であり、企業は地域社会の向上のために活動すべしとする動きが盛り上がった。これは『企業フィランソロピー』といった言葉によって説明されてきた」p33
「企業は、児童労働や遺伝子組み換え食品から塩ビ使用の問題まで、社会・環境問題について自社の見解を持つ必要に迫られる。そのため、多くの企業がNGOで働いた経験者を採用するようになった。トリプルP(経済・環境・社会)ボトムラインは新聞などへの全紙大の企業広告を掲載するコミュニケーション・キャンペーンではなく、ステークホルダーとの協力と交流を重視し、ブランドやマーケティングコミュニケーションについて新しい方法を考えることだ、と論じられた」p51

■概要
 企業による非営利セクターとの協働について、海外事例を交えてまとめられた一冊。「CSR評価」「パートナーシッププログラム」「企業行動基準」「認証制度」「CRM」「BOPビジネス」「企業寄付・従業員参加」「ソーシャルビジネス」といったテーマ別に、最新動向を理解できる。個人的には、FSC(森林管理協議会認証)とFLO(フェアトレード認証)に関するNPOをコンサルティングしていることもあって事例を身近に感じた。著者は元ジェトロ職員の拓殖大学教授。プラン・ジャパン理事やACE評議員も務めており、海外NGOが持つ国際的な監視能力が持つ可能性を強く評価しているのが印象的だ。

■社会貢献から社会責任へ
 CSR論が広がったのは、1995年のシェル社の問題によるという。北極海で産業廃棄物を投棄していたシェルに対して、グリーンピースが不買運動を展開。その動きは欧州に広がり、ドイツでは74%の市民が不買に積極的になった。その後、シェルは廃棄物投棄をやめ、環境問題の専門家を雇用。トリプルPボトムラインに代表されるコンセプトを提示しつつ、徹底したCSR活動を展開した。単なる社会貢献キャンペーンではなく、多様なステイクホルダーに対して社会的責任を果たすことが、企業にとっても重視される先駆けとなった。

■日本では?
 グリーンピースやシーシェパードに代表される攻撃的なNGOが有名になっているが、それらに日本市民に共感されていない。震災で新しい局面を迎えたものの、このままではCSRは一過性に終わるだろう。非営利セクター側が正確な情報把握を行い、市民からの支持を受ける土壌を作る必要がある。震災復興でも、NPO・NGOの情報発信は不十分。今後の成熟が期待される。
 

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2012年02月28日

1424旅 谷本寛治『CSR 企業と社会を考える』★★★

「1970-80年代、アメリカで企業の社会的責任を段階的に捉え、1経済的責任、そして2法的責任、その上に3倫理的責任、4任意の責任=社会貢献活動と位置づける見解があった。時代とともに@の割合より2、3の割合が大きくなっていると指摘されている」p58
「マイクロソフトはIT活用支援を通して、これまでITを活用する機会が少なかった人々の自立支援・人材育成を推進する取り組みであるUPプログラムを実施している。徳島県や大分県など都道府県レベルの地方自治体が単独では解決できなかった社会的課題(障害者の就労支援やIT技術指導など)にも解決策を提案したこと、さらにその地域のNPOと運営面、技術面で協力していくことによりNPOセクターのキャパシティ・ビルディングにも貢献していることがあげられる」p205

■概要
 グローバル化とNGOの対等により、企業の社会貢献はフィランソロピーからCSR(Corporate Social Responsibility)へと変化している。その経緯を紹介しつつ、企業が社会貢献を推進する上でのポイントを簡潔に整理した一冊。著者は一橋大学教授で、社会的企業に関する研究の一人者。

■社会的責任の変化
 70年代までは、企業は経済活動を通じて国に税金を納め、雇用を促進していれば社会的責任を果たせていると考えられていた。しかしNGOが環境・人権に対する企業責任を問う声が広がる中で、倫理(エシカル)を求める声が拡大。日本でもグローバル化比率が高い企業や、外資を中心にCSRが促進され続けている。
 たとえば昨晩参加した「UPプロジェクト」は、マイクロソフトによる本業を通じた社会貢献活動の一つ。地域における障害者・若者就労支援、NPOセクターの基盤強化を目的として進められている。震災における就労支援のために準備が進められているが、個人的にはコミュニティ形成・再生のためにも活用されてほしいと思っている。

■CRMの進め方
 震災緊急支援では、企業によるCRM(Cause-related Marketing)が注目された。これは、社会課題解決を目指して、製品の売り上げの一部を寄付するもの。ヤマト運輸による宅急便一つにつき10円。キリンビールによるビール一缶につき1円といった設定がなされ、数十億円単位で震災復興支援に回された。
 本書では、このCRMを進める標準的なプロセスが説明されている。

1 計画・準備(社会課題把握、企業理念との連動、社内連携)
2 パートナー選択と契約(協働する団体の絞り込み。プログラムの効果・リスク想定。契約)
3 プログラム実施(課題の伝達。わかりやすく仕組みとPR)
4 評価とディスクロージャー(成果の公表。寄付の流れの明確化)

 様々なCRMがあるが、3のPRを除くと課題があるように思われる。適切な社会課題を選択できているか。効果を最大化できるパートナーを選択できているか。成果をディスクローズできているか。広告代理店の力もあってPR面は十分だと思われるが、広報だけでは社会貢献を利用したマーケティングだと揶揄されかねない。組織の中に専門人材を置くか、または社会課題を熟知し評価できるパートナーと連携するかし、社会的成果が上がる仕組みを持つ必要があるだろう。震災によりCRMは注目されているが、その成果が上がっているかの検証はできていない。CRMがブームに終わらず継続するための正念場にあるといえるだろう。


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2012年02月24日

1421旅 白須敏朗『東日本大震災とこれからの水産業』★★★

「石巻でも水産加工関係で、四千人の雇用が失われたといわれています。気仙沼でも、七万四千人の人口のうち、約七割、五万人の人達が水産関係に携わっているといわれていますが、その大半が失業の危機にあるといわれています」p91
「市場は気仙沼の努力でとりあえず水揚げできる体制はできた。しかし、加工流通がないので、本来、半分以上はナマリ節や缶詰用に加工しているカツオも、今年はすべて生鮮出荷せざるをえない。だからこそ、加工場がいる」p99 (気仙沼漁協村田専務)

■概要
 東日本大震災による、水産業の被害状況と、政府による支援策(1〜3次補正予算)の概要がコンパクトに整理されている。今後の復興に向けた洞察は弱いが、現状理解には役立つ。著者は元・農水省事務次官。

■水産業と復興
 復興のために、被災沿岸地域の事業再開は欠かせない。そして被災地の産業とは、ほぼ水産業である。漁師の数そのものは少ないが、加工、卸、小売などの水産業関係者を含めればかなりの数にのぼる。気仙沼では7割5万人が水産業に携わっているという。
 現在の課題は水産加工業である。漁獲そのものも甚大な被害を受けたが、予算措置は迅速にとられ、比較的民間による支援も入りやすい。しかし水産加工業は企業が主体ということもあり、支援が入りづらい(協業型をとらないと申請ができない。非営利セクターの支援も困難)。しかし、三陸で付加価値を生んでいたのは水産加工であり、主な雇用主体でもあった。
 水産復興に向けたポイントは、コミュニティ再建にあると考えている。現在、復興支援もあって気仙沼では水産業への需要も高まっているという。だからといって各社が設備投資しても、数年後には元に戻ることで財務体質は悪化する。地域コミュニティの中で、設備・人材・販路などで横連携を行い需要を吸収することがまず求められている。
 シリコンバレーでグーグル、アップルといった大手企業の従業員は、夜になれば個別に集まって世界のウェブサービスの動向について議論を交わすという。被災地の中小企業は意外に連携が弱かったようだが、復興にむけて議論を交わすような場が増えても良いだろう。私は以前、若手活動家が集うサロンのようなBarを経営していたことがある(狐の木という)。そうした場も、被災地には必要かもしれない。


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2012年02月23日

1420旅 西川芳昭ほか『市民参加のまちづくり 事例編』★★★

「筑後川新聞が画期的であるとされているのは、その対象地域として筑後川流域圏全体を網羅しているということである。つまり、それは、市町村の枠組だけでなく、県の枠組さえも取り払って、流域圏で湧出する各種情報を住民へ向けて直接発信している唯一の媒体である。まさにそれは、筑後川流域圏における情報断絶の解消だけでなく、流域圏住民という共同意識の醸成をも目的としているのである」p6
「自治体の枠組を越えて情報交換する上で最も重要なのは、近隣で暮らしている住民レベルの情報共有化であって、決して行政レベルでのそれではない。住民レベルにおけるネットワークの構築が実現してはじめて各地域間に共通した真の問題点が浮かび上がってくるからである」p14

■概要
 NPO・市民・行政が連携したまちづくりとは何か。特にNPOの果たす役割に注目して、その意義をまとめた一冊。タイトルの通り事例が豊富。筑後川、九州大学、伊万里、サンフランシスコ、スコットランド、湯布院、長浜、金沢など、各地でのケースが、当事者によって綴られている。2000年に行われた久留米大学による市民講座の講義から構成されている。

■紙メディアによる情報共有
 行政間ではなく、住民間の真の連携を促進するためには、「情報共有」と「住民参加」が必要だという。『「統治」を創造する』(http://www.amazon.co.jp/dp/4393333128)でまとめられたように、近年はtwitter/facebookの盛り上がりによって、情報共有の在り方は新時代をむかえつつある。しかし本著が書かれた10年前はSNSは存在せず、ミニ新聞やフリーペーパーが情報共有の中心的役割を果たしていたのだろう。筑後川新聞の事例が紹介されているが、地元NPOが制作。福岡、佐賀、大分、熊本をまたいだ地域をつなぎ続けている。現在も隔月で25000部発行されている(http://news.ccrn.jp/?eid=1105366)
 紙メディアは東北復興でも有効だと考えている。東北復興新聞(http://www.rise-tohoku.jp/)は隔週で復興状況を伝えているが、絞られた対象(この場合復興関係者)に直接届き、ネットに埋もれずに物理的に読むことができることで好評だ。
 今後、コミュニティ単位での復興を進める上でも、各地域で紙メディアが果たせる役割はいよいよ大きくなりそうである。


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2012年02月20日

1417旅 市村浩一郎『日本のNPOはなぜ不幸なのか?』★★★

「(特定非営利活動促進法の)目的には『ボランティア活動をはじめとする』とある。これには賛否両論あった。非営利活動について誤解を生む一つの要因であるとも考えられる。(略)この一文があることで、ボランティア活動が特定非営利活動の根本であるように思われてしまう」p45
「そこ(※)でうたわれたのは、1特活法人運営の基盤強化の必要性と、2法施行上の課題である。前者では、業務運営に必要な人材や資金の確保という面で課題を抱えている法人が多いことから、法人は自身の情報を積極的に公開し、人材や資金の確保につなげることで、その運営基盤を強化することが求められるとしている」(※05年以降国民生活審議会総合企画部会で行われた特定非営利活動法人制度の見直し議論のこと)p94

■概要
 1998年に特定非営利活動促進法(通称NPO法)ができてから14年。東日本大震災もあり、益々NPOの日本における存在意義は高まっている。NPO法の意義と課題を整理し、これからのNPO像を描いた一冊。著者は衆議院議員で、阪神・淡路コミュニティ基金の事務局長も務めていた。

■NPOとボランティア
 震災後に、民間と政府をつなぐセクションとして出来たのは「内閣官房震災ボランティア連携室」である。その後、復興対策本部となった際には「震災ボランティア班」に移行。2月10日に設置された復興庁では、ボランティアよりもNPOは企業CSRとの連携を色濃くすることが議論されたが、結果的にボランティアの名前は残り、「ボランティア・公益民間連携班」となった(2月現在、私も非常勤スタッフとして関与させて頂いている)。すなわち政府内でも、NPOより「ボランティア」の方が通りがよいと考えられている。
 しかし復興は10年単位で継続するべき動きである。寄付や自主事業を通じて安定雇用し、事業を推進できる力がNPO・民間団体にも求められている。無償奉仕=ボランティアのイメージをそろそろ乗り越え、プロとしてのNPOが存在感を高めていく必要がある。

■基盤強化の必要性
 基盤強化の取組みも、増えているように思う。facebookでも一度ご紹介したパナソニックさんの組織基盤強化プログラムが先鞭をつけた。また各地でNPOマネジメント関連のセミナーも増えている。
 私も今日(2月20日)はこれから岡山NPOセンター主催の「ファンドレイザー要請講座」に登壇。ビジョンの重要性、問題構造の理解、経営課題の抽出、ステイクホルダーの理解などを前回(2/6)に実施し、今回は組織マネジメント関連のセッション。こうした内容を、岡山のNPOの皆さんは既に勉強されていて、高度な議論もできる。日本全国のNPOで、大手企業並みのマネジメント力強化が求められるし、その実現も近いと考えている。
 今回の講座を実施する上で、最近のNPOマネジメント関連本をいくつか読んでみたが、決定打になる本は無かったように思う。若い世代で作ってみないかな。

■参考
「パナソニックのNPOキャパシティビルディング支援プラットフォーム」
http://panasonic.co.jp/citizenship/pnsf/


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