「ニッポンのジレンマ」という正月にNHKで放映された番組があります。駒崎弘樹さんや猪子寿之さんら20-30代の若手論客が集い、日本が抱える問題について討論した内容です。祥伝社から書籍化もされています。ちょうど今晩、その第二弾が放映されるということで、書籍から面白いと思った内容を紹介したいと思います。
■問題に正面から向かう〜萱野稔人さん・飯田泰之さん12人の中では、哲学者の萱野さんと、経済学者の飯田さんの議論が特にソリッドで好きです。引用します。
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萱野「規制をする国家と自由に行動する個人、という対立図式は、国家の位置づけとしてあんまり正しくありません。社会の仕組みをつくったり、ルールを変えていくという場合、国家と個人は対立しているわけではないからです。逆に、個人のほうに、社会をデザインしていくことへの当事者性がないことのほうが問題です」p190
飯田「ごくごく小さい自治体の重要性と、県という単位の微妙さというのを、非常に多くの現場の方が感じているようです」p168
飯田「事後規制というのは、失敗したらペナルティがあるれど、お前がいけると思ってやっているんだから、まずやってみろという。これはいろんな業界で重要になってきている」p170
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萱野さんはほかに年金問題を取り上げ、「経済成長が困難な前提で、社会保障を賦課方式から積立方式に移行すべき」との正論を主張し続けます。飯田さんは、事前規制ではなく事後規制という、自由だが責任も大きい在り方に変えよと主張します。同意。最近の、レバ刺しや柔道規制問題にも通じます。個人一人ひとりが責任をとることを放棄し、政府に責任を求めすぎることが問題の根本にあると私は捉えています。
■当事者性を持つ〜城繁幸さん・駒崎弘樹さん さて、あとは人事コンサルタントの城さんと、フローレンス・駒崎さんの意見を取り上げます。
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城「議会の質問で、ちょっと若者向けの発言をした政治家が自分の選挙区にいれば、『よかったですよ、この間は』みたいなことを言ってあげるだけで、ずいぶん風通しがよくなるんじゃないか」p200
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「自分の意見に近い政治家を応援すべき」とのスタンスも勉強になります。よく、「日本を良くするならば政治家」になるべきと考えたり、勧める人もいます(「政治家にならないの?」なんてたまに私も言われることがあります笑)。しかし、それは違うと思うのです。「ネット選挙解禁が必要だと思うなら、A議員を応援しては」。「年金を積立方式に変えたいと思うならB議員を応援しよう」というように、個別政策を進めている代議士らを固有名詞で理解する必要があると思うのです。政策が曖昧な中で政治家になろう、というのは空虚であるように感じます。
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駒崎「企業であったり、NPOであったり、あるいは名もなき市民たちであったり、そういうように総動員戦である種、震災と闘った時期があったのではないか。ここに僕はヒントがあるような気がしてなりません」(p167)
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そして駒崎さんの言葉に感銘。番組の他の参加者の言葉からも感じましたが、「当事者性」が新世代のキーワードなのだと思います。番組や本の感想を見ると、「現状分析に終始していて、具体的な提言がなかった」などと書かれています。こうした声こそが当事者性のなさの象徴であって、その反映として今の政治やメディア環境を作っているのではないでしょうか。しかし12人の論客は、自分たちは当事者性をもてるという明るさを持っています。年金問題や経済成長や震災復興も、自分たちが変えていけるという、気概がそこにあります。
では課題は何か。私は、"当事者になったからこそのジレンマをいかに乗り越えるか"ではないかと思うのです。その事については次のブログにて。昨日話題になった、前・内閣府参与の湯浅誠さんのインタビューから、かんがえてみたいと思います。
■参考文献祥伝社『徹底討論!ニッポンのジレンマ』(2012)